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 陸斗(りくと)を否定するでもなく、それどころか陸斗に「大変だね」と労わる言葉をくれた。どこかで柚陽(ゆずひ)ならそう言ってくれるっていう期待が、陸斗にもあったけれど、本当に想像で補うのと、本当にその言葉をかけてもらうのとでは、やっぱり違う。  最近じゃ、イライラしてばかりで、元から悪い目つきを更に凶悪な物にしたり、眉もしかめられたりと、そんな「怒り顔」ばかりしていたけど、柚陽の言葉で少し楽になった気がする。  あ、オレ、今、少し笑ってるかも。  頬が久し振りに緩んだのを感じて、陸斗はそんな風に思った。  笑うのなんて、いつぶりだったかな。  大学に入ってから、それなりに友人付き合いをしてるといっても、そこに海里(かいり)がいなきゃ笑うことなんて滅多にない。「美形の真顔って怖いんだよ」と、果たして何度言われたか。  でも、海里の前じゃ、よく笑ってたから。それなのに、今は、海里の前で笑えることなんて1つもなくなってしまったから。ここ最近は、海里と会う前みたく、ほとんど笑わなくなってた。 「りっくん?」 「ああ、ごめん。柚陽が慰めてくれたの、嬉しくて。やっぱ柚陽はやさしくて素直っすねぇ」  不機嫌なぶっちょうづら、もしくは周りから「怖い」と評判の真顔が、急に微笑みに変わったら、さすがの天然少年も驚くんだろう。大きな目をますます大きくさせて、また、こてんと首を傾げた柚陽に、自分の気持ちを素直に告げれば、柚陽は笑顔を浮かべる。  柚陽。  その名前の通り、きらきらとして、あたたかい、太陽のような笑顔だと思った。時々会話が成立しないくらいのド天然なのに、なんだかんだと人に囲まれている理由も分かる気がする。 「少しでもりっくんの役に立てたなら嬉しいよー」 「ほんと、元気出たっすよ! 柚陽と遊べるの、気分転換にもなるし。……まあ正直、あの家に戻らなきゃなんねぇって思うと、ユウウツっすけどねぇ」

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