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楽しい。幸せ。息ができる。
そこまで考えて、あの家が自分にとって、もう、息苦しい物になっていたんだと陸斗 は自覚した。違う、より正確に言うのなら、「認めた」。
まだ、どこかで、海里 が戻ってきてくれる可能性を、夢見ていたんだ。陸斗をダブルベッドから追いやって、陸斗の手を振り払って。なにを言っても聞いてくれない。出される料理は日に日に味が落ちていって、今や食えた物じゃないというのに、それを食べろと強要するような、そんな海里が。
やさしくて、一緒に寝てくれて、ソウイウコトだって陸斗の求めに何だかんだと照れくさそうに微笑んで応じてくれる。陸斗が好きで、それでいて栄養をきっちり考えた食事を、毎日テーブルに並べてくれる。「海里」呼べば微笑んで、おはようのキスもおやすみのキスも欠かさないでくれるような、そんな海里に戻ってくれる、って。
そう思っていたから、ガマンしてた。でも、もう、海里の関心が空斗 にしか向いていないのは、明らかじゃないか。
やっぱ自分の子なんすよ。だからあんなに可愛がって。だから他人の陸斗なんて放っておける。
「りっくん!」
折角楽しさと幸せで心が満たせそうだったのに、海里の事を思い出したらまた、イライラが浮かんできた。
どこか焦ったような声で名前を呼ばれて、陸斗ははっとする。知らずに息も止めていたらしくて、存分に息を吸い込んだ。
「やっと気付いた! びっくりしたよー、りっくん、突然ぼーっとするんだもん。それこそ、呼吸も忘れてる感じだったから、心配したんだよ?」
こてん。いつもの様に柚陽 が首を傾げる。でも、その大きな目は心配そうに潤んでいた。陸斗が気が付くのにもう少し遅れていたら、泣き出していたかもしれない。
心配した。そんな単純な言葉が、今の陸斗には嬉しかった。
「柚陽、オレの事心配してくれてたんすか?」
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