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そう。嫌ではない。嬉しい。
ただ、本当に驚いただけ。最近では陸斗 のために料理が作られた事なんてなかったんだから。
いくら頼んでも、「空斗 には食えないだろ」「子供の体には悪いだろ」ばかりで、陸斗の事なんて一切気にしてくれなかった。でも、それは前々からだったかもしれない。
たとえば、陸斗が好きな辛口のメニューとかも、陸斗がリクエストした辛さより甘い時も少なくなかった。それはそれで美味しかったけど、陸斗が食べたかったのは、それじゃない。
今となっては、陸斗のリクエストが、それらしい形で通った事なんてない。「食べたい」と言っても“そう”なんだ。陸斗が黙っていて「ご飯作ろうか?」なんて言ってもらえた事、ない。
だけど柚陽は、それをしてくれた。
自分のための料理なんて、もう食べられないと思っていたくらいだから、びっくりしたし、少し涙腺も緩む。
泣いたら柚陽を、また気にさせてしまうから、誤魔化す様に必死でごしごしと目を擦る。バレたらバレたで「ゴミが入った」って言える、ベタベタだけど柚陽に対しては効果バツグン。
「ほら、喫茶店でも言ったけど、オレ、家であんな感じだからさ。まさかオレの分を作るって言ってくれるなんて、思ってなくて。だから嬉しいんす」
「りっくんの口に合うかわからないけど、頑張って作るね! 愛情、いっぱい込める!!」
元気付けようとしてくれているのか、柚陽は明るい声で言いながら、めいっぱい背伸びして、めいっぱい手を伸ばす。
何をしたいのか一瞬分からなくて、突然の行動にきょとんとしてしまったけど、ああ、と悟って膝を曲げて、少し身を屈めた。ぽんぽんと柚陽のあたたかい手が陸斗の頭を撫でる。
あ、これはたまらないっすわ。
長身の人間が頭を撫でられるのに弱いという話が、分かった気がする。なんというか、きゅんとなった。
「じゃあ、行き先は変更だね! スーパーに行って、足りない材料を買わないと。りっくん、なにが食べたい?」
「柚陽が作ってくれるなら、なんでも嬉しいっす! あ、でも、出来ればオレ、辛い料理食いたいっすねぇ。スパイスの効いたカレーとか、激辛の中華っすかねぇ。エビチリとか、担々麺とか好きなんすよ」
「うん! 1度に全部は無理だから、今日はカレーで良い?」
「オッケーっす。あ、荷物持ちはオレにお任せっすよー」
何気ない会話が本当に嬉しくて、幸せだと思って。
ああ、これがオレの欲しかったものなんだって、陸斗は凄く満たされていた。
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