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「ほんとに、ほんとに良いの?」
これを言われるのは何度目だろうか。考えて、すぐに止めた。わざわざ数えてなんていなかったし、仮に最初から数えていたとしても、もう数えきれないだけの回数、同じことを言われていただろうから。
でも陸斗 は、「しつこいっす!」「……鬱陶しい」とキレる事もなく、それどころか、微笑んだ。
もしこの姿を誰かが見ていたら、「ああ、海里 と話してるのか」スルーしかけて、「は!?」ベッタベタな2度見をしていただろう。
気が短い。何にも興味がない。海里以外にやさしさを向けない。
大学時代でようやく出来た、友人と言えるような人間は、陸斗の事をそう思っているし、陸斗も自覚してる。
あまりにもしつこく、同じことを言われるのは誰だって嫌だし、自分はその限界点が人より遥かに早い。そう思っていたんだけど。
片手にデザートの軽い袋だけを持った柚陽 は、何度も何度も「オレもそっち持つよ?」「交代にしよう?」と言ってきた。当然柚陽に重い物を持たせるつもりはないし、これくらい重いとは感じない陸斗としては「大丈夫っすよ」と返す。それでも納得しない柚陽が発するのが、冒頭のセリフ。
長くない道のりの間、何度も行われたやり取りに、でも陸斗は1回目と同じく、やわらかい声音でやさしく返す。
「良いの。なんなら、柚陽に重い物を持たせたくないっていう、オレのワガママだと思って」
さっきまでなら、ここで終わり。
けれど今回陸斗は、ちらっと目線を映した。買い物袋は2人とも片手で持っているから、もう片方の手は、当然だけど空いている。
「柚陽。じゃあ、手を繋ごう? 柚陽がオレを持ってくれれば解決っすよ」
我ながら苦しかったかな?もっとスマートな方法もあったかもしれない。でも、手の繋ぎ方も、手を繋ごうと声を掛ける方法も忘れてしまってる。
自分の言葉に対する後悔と採点は、長くは続かなかった。
空いていた片手に、かすかな重みと、あたたかな体温。
「うん! そうする」
ぱあっと、花が咲いた様な笑顔が、簡単に吹き飛ばしてしまったから。
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