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「ねぇねぇ、柚陽 。今夜も柚陽のトコ、行って良い?」
わざとらしく、あてつけの様な言い方になったのは、多分そのイライラのせいだ。今や陸斗 はそんな言い方をした事に対し、「柚陽を巻き込んでしまって申し訳ない」としか思えなかった。
巻き込んだ、というのは適切じゃないかもしれない。でも柚陽と一緒にいて幸せだし、柚陽は可愛いし、そんな柚陽を、“こんな事”に使ってしまったのが、ひどく苦しくて、悔しくて、自分の事が許せない。
柚陽はきっと正直者だから、陸斗の言葉に裏を感じ取らないだろうけど、だからこそ余計に、柚陽を利用するみたいな言い方をしてしまった自分をぶん殴りたい。
「うん、もちろん良いよ。オレ、りっくんが来てくれると嬉しいし。りっくん、今日は何が食べたい?」
やっぱり柚陽は気を悪くした様子はなく、それどころか、いつものようににっこり微笑んで、陸斗のリクエストを聞いてくれる。
こてん、傾げられた首。とても可愛い、いつもの柚陽の仕草。
「柚陽が作ってくれた料理なら絶対なんでも美味しいんすよねぇ。昨日のカレーも美味しかったし。あ! 今日は中華が良いっす」
「エビチリだよね? 辛めのヤツ。調味料は揃ってるけどエビがないし、今日もりっくんと一緒にお買い物、できるかな?」
「当たり前っすよ! 柚陽と買い物するの、凄く楽しいし」
そこから先はあてつけでも何でもなく、陸斗の本音だ。既に海里 の存在は、陸斗の意識から消えていた。
ただ、柚陽と夜の事を話すのが楽しかった。楽しかったし、柚陽との買い物や晩ご飯、その先にあるかもしれない事を考えるとドキドキもして。
「おい、止めろって!!」
だから、そんな風に強く肩を掴まれて発せられた声は、ひどく不愉快で、陸斗は思いきり顔をしかめて、その誰かを睨み付ける。
陸斗の目に明らかな怯えをみせた誰かは、それで諦めてくれれば良かったのに、少し震えながら陸斗を睨み返した。
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