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「お前、なんのつもりだよ?」
「そっちこそ何のつもりっすか? オレは今、柚陽 と仲良くお話してたの。アンタに止める権利はないと思うっすけど」
なんのつもり、と聞かれても陸斗 には分からない。柚陽が嫌がっていたり、すでに講義が始まっているならともかく、そうじゃないんだから、ただの友人に止められる覚えはなかった。
それも、大学に入ってから出来た友人の中で、そこまで親しい方じゃない相手だ。肩を掴まれるのも、不快でしかない。
なにを話したいのかは知らないが、陸斗が睨んだだけで怯えているんだから、とっとと諦めれば良いのに。柚陽との幸せな時間を邪魔されたのもあって、陸斗は睨む力を強める。手を出さなかったのは、あくまで柚陽を巻き込む様な真似をしたくないからだ。そうでなかったら、もう、とっくに殴ってる。
「海里 となにがあったのか、オレには分からないけど。もっと言い方ややり方ってもんがあるだろ? 柚陽の事を気にするのは結構。でも、もう少し海里を気遣ったら?」
ああ、そうか。友人の間で陸斗と海里が付き合っているのは、結構有名だ。あの何にも興味を示さなかった陸斗が、って、それなりに話題にもなったし。
だから陸斗を責めるって?いくら友人同士でも、他人の恋路に首をツッコむのはルール違反でしょ。
はあ。大きく溜め息をついて、ちらっと海里を見る。
友人が自分の名前を出したからか、少しだけ本から顔を上げている事で表情が窺えた。いつもと何も変わっていない。一体このどこを見て、気を遣う必要を感じたのやら。
「つーか、気を遣われるべきはオレでしょ? マズイ飯を無理矢理に食わされて、ベッドからも追い出されて。海里がヨソで作ったガキのために、オレが我慢する。有り得なくないっすか? それともアンタ、自分なら耐えられるって言うの?」
「お前、いい加減に!!」
気を遣ってほしいのはオレの方なのに。
でも、海里に心酔でもしてるのか、その友人は聞く耳持たずで、陸斗が訊ねた事には何も返さず、拳を振り上げた。
先に手を出してもらったなら、正当防衛になるだろうし、ここで素直に殴られれば評価が下がるのは向こうだ。どっちにせよ、陸斗にとって悪い結果にはならない。
柚陽だけは巻き込まない様に周囲をちらっと確認して衝撃に備えつつ、陸斗はにやりと口端を吊り上げた。
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