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 柚陽(ゆずひ)との時間割は完全に被っていなくて、たとえば今日で言うなら陸斗(りくと)の方が1時間分短い。「先に帰って良いよ?」っていう柚陽の言葉は断った。だって折角なら一緒に帰りたいし。  だから陸斗はテラスで時間を潰す事にした。授業中とはいっても、陸斗の様に誰かを待っている人や、多分今は授業が無いけど次はあるって感じなんだろう、貸し切りとはいかない。  少し話し声が聞こえるのは鬱陶しいけど、まあ、気にする程度じゃないと思う。  さすがに、こっちを見てソワソワ、コソコソされるのは不愉快だけど。  さっきの教室にいた人間だろうけど、本当、同じ事をされてみろって話だ。まっずい料理に自分の家でもあるのに居場所が無い状態。  そうした原因と、そんな状態で「りっくん、頑張ったもんね」って頭を撫でてくれた相手。どっちを大切にしたいかなんて、バカでも分かりそうなのに。  手持ち無沙汰にいじっていたケータイを、叩き付ける様にテーブルへ置いて、陸斗の事を好き勝手コソコソ言っている集団を睨み付けた。ひっ、小さな悲鳴を1つ。慌てて目が逸らされる。……まったく、そんな態度になるくらいなら初めから首ツッコむな、っつーの。  でも、人の事なんて全く気にしてなかったというのに、こうもコソコソ、それも「海里(かいり)が可哀想」と言われるのは、さすがにイライラする。  なんでマズい飯を無理に食わせて、こっちの自由を奪うだけ奪って、しかも不貞働いてる方が同情されるんすかね?  外見?病気かってくらいに青白い肌が弱々しい印象を抱かせて、責めにくいとか?  それとも友達だから責めれないとか?  なんにせよ、陸斗にとっては腹立たしい事この上ない。 「まったく、被害者はこっちっすよ。あっちの方がとんでもない悪人だっつーの」  誰に宛てたワケでもない文句を口にしながら、陸斗はテーブルに置いた腕を枕代わりに、眠る事に決めた。  柚陽が頑張って授業を受けている中で眠ってしまうのは申し訳ないけど、ケータイを開いたって大して時間は潰せないし、好き勝手言う他人にはイライラするし。そういう時は寝てしまうに限るだろうと、柚陽との夜を楽しみに、陸斗は目を閉じた。

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