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「ん……」
「ごめん! 起こしちゃった?」
ぱちりと目を開き、頭を上げて、1番に映ったのは、こてんと首を傾げた柚陽 。「ごめん」と謝った通り、眉は少し垂れ下がっていて、大きな目も揺れていた。
ちょっと昼寝してただけだし、むしろ柚陽が授業中なのにテラスで寝ていた陸斗 の方こそ謝るべきな気がするけど。
「大丈夫っすよ! 遠慮しないで、柚陽の都合でいつでも起こしてくれて大歓迎っす。そもそも柚陽が授業受けてるのに寝てた、オレもオレだし……あ、れ?」
照れ隠しに頬を掻こうとして、何かが落ちたのが分かった。
床に視線を落とせば、そこには、薄手のブランケットが1枚。真冬じゃ暖が望めそうにないけど、この時期、少し肌寒いっていう時に、寒がりさんが持っていると便利かもしれない。
別に寒がりってワケじゃないから、陸斗はこういった物を持ち歩いてはいない。だから昼寝する時もかけていなかった筈だけど、頬を掻いた時に何かが落ちる感触がしたのとか、その後床に落ちていたのを考えると、陸斗に掛けられていたのだろう。
そして、こんな事をしてくれる人間、大学内じゃ1人だけだ。
陸斗はそっと拾い上げ、柚陽の方に向けてしまわない様気を付けて軽く埃を払う。幸い、このテラスはいつも綺麗で、ゴミの類は落ちていない。目立った汚れが付いていない事に安心する。
「これ、柚陽が掛けてくれたんすよね。ありがとう」
「うん。そろそろ涼しくなってきたし、風邪ひいちゃわない様にって思って。却って暑くなかったかな?」
「あったかくて丁度良かったし、おかげでぐっすりっすよ。ありがと、柚陽」
「良かった!」
本当に嬉しそうに笑って、柚陽は陸斗が手渡したブランケットを自分の鞄へと入れた。その鞄を柚陽が持つより先に、陸斗は自分の肩へと掛ける。
さすがに買い物袋まで加わってしまうと持てないけど、スーパーで買い物を終えるまでのささやかな恩返しだ。
絵に描いたように、わたわたと戸惑い、「りっくんに悪いよ」と訴える柚陽にそう伝えれば、納得してくれたようで、「ありがとう!」と笑顔が浮かぶ。
ああ、本当に可愛くて、やさしい子だなぁ、柚陽は。
さっきまでのイライラなんてどうでも良くなるくらい幸せで、陸斗はそんな幸せそのままに、頬を緩めた。柚陽も、笑っていた。
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