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「はー、次の教室が近くて助かるっす」  授業時間というのは、やはり楽しいものじゃない。話し上手の教授ならまだしも、そんな教授には残念ながら出会った試しがない。  それに柚陽(ゆずひ)が一緒にいないというのが、陸斗(りくと)にとっては何よりも不満である。こんな事になるくらいなら、時間割を合わせるなり、いっそ自分の時間割をシカトしてしまえば良かった。  いつもよりどっと疲れたのを感じながら、背伸びを1つ。  こういう時は教室の移動さえ面倒になるから、すぐに移動出来るというのは、まだありがたい。  鞄を荒っぽく肩に掛けて、昨日の騒ぎを見聞きした誰かさん達が、こっちを遠巻きに見るのを不快に思いながら教室を出ようとした陸斗に、ぽふん、とでも表せそうな、小さな衝撃。  ちょっとだけ昨日の今日なのと、久し振りなのとで、まだ気だるさは残っている。そこに授業での疲労。「う!」なんて、まだ若い大学生があげるには、ちょっと不自然なうなり声が出そうになった。でも、不思議と不快じゃないのは、きっと。  衝撃がした方に顔を向ければ、思った通り柚陽が抱きついていた。  コソコソこっちを見ていた連中が、何やら騒ぎ出すけど、今はもう、気にならない。陸斗の顔は柚陽を前にして、まさに「でれ~っ」という具合に緩んでいた。自覚してるっす。幸せボケだって。  でも、どうしたんだろう。柚陽の授業があった教室は、ここから少し離れているし、次の授業なんて更に離れてる筈なのに。  不思議に思う陸斗に答える様に、えへへー、満足そうな笑顔を浮かべていた柚陽は、弾んだ声で、 「本当はダメだけど、走ってきちゃった! ちょっとでも、りっくんの顔が見たかったんだ!」 「柚陽!!」  そんな事言われれば、歯止めなんて効かない。ここが教室だって事は気にならなかった。柚陽の額にキスをする。  昨日のキスマークは服を着ていても全然隠れてなくて、ムラッともするけど、さすがに自制。TPOを考えたというよりは、あんな、とろんとなって可愛い柚陽を、人前にさらしたくない、っていうのが大きいかもしれない。

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