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幸せに浸っていても、邪魔をしてくる人間っていうのは、いる。
空気が読めないのか、恋人がいない事をやっかんでいるのか、融通が効かないのか。
あるいは。
「お前、本当になんのつもりだよ」
聞こえた、明らかに「怒ってます」といった低い声と、陸斗 の肩を強く掴む手。
海里 の友人で、一応は陸斗の友人でもある港 だった。
港の手に傷が付くなんて事は気にもせず、自分の爪が港にあたるのも気にしないで、乱暴に手を振り解いた。ガリッと嫌な音がしたし、爪の間に不快感があるから、結構深く引っ掻いてしまったかもしれないけど、先に手を出したのは港だ。なんかあっても、正当防衛、ってやつっすね。
多分コイツは、空気が読めない。でもきっと、遠巻きにコソコソするだけじゃなくて、わざわざオレと柚陽の間を邪魔するって事は。
海里なんかの味方をする勘違いヤロー。もしくは、海里の本命。
つーか、海里の本命だったとしても、オレと浮気してたんすよ?海里を怒れば良いのに。
解せない気持ちを感じながら陸斗は港を睨むが、今回はそれだけじゃ引いてくれないらしい。睨み返された。
その後、港の目線が柚陽の首筋に向いたのは明らかだったから、咄嗟に柚陽を背中に庇う。
陸斗のものだと主張したくて付けたシルシではあるけど、マジマジと見つめられたくない相手というのは存在する。
「……コレ、キスしただけか?」
「アンタこそ、どーいうつもり? 人のデリケートな問題に立ち入るもんじゃねぇっすよね?」
「海里になんて言うつもりだよ!?」
「アイツに言う事なんて、オレの家具や私物は処分してくれ、くらいっすね。費用は慰謝料代わりにそっちで払ってよ、も追加したいっすけど」
なんて言うつもりか聞かれたから、正直に答えたのにも関わらず、港は気に入らなかったらしい。思いきり陸斗を睨み付けた。
柚陽を背中で庇っておいて良かった。こんな、「殺してやる」と言わんばかりの目、柚陽には見せられない。見せたくない。
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