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「テメェ、まだそんな事言ってんのかよ!? 海里 を裏切って、あげく“慰謝料”? テメェの方こそ海里に払うべきだろ!」
「いやいや、アイツが、オレを裏切ってたんだし? オレは浮気されてた上に、ひっどいメシを食わされて、ひっどい生活を強いられた被害者っすよ?」
「陸斗 !!」
港 が叫んで、拳を作る。今度こそ殴ってくるだろうと思った。
今ここに、港を止める海里はいない。他の野次馬連中は、わざわざ火の粉を被りには来ないだろうし。
もちろん痛いのは陸斗とて好きではないが、ここで問題を起こさせれば、陸斗と柚陽 の邪魔をする人間はいないだろう。最悪正当防衛を盾に殴り返せるし。
けれど陸斗のそんな期待は、今日も裏切られる。
誰かが止めたワケじゃない。港本人が、本当に、「不本意だ」と言わんばかりに。自分の体を怒りで震えさせながらも、拳を解いたから。
ちっ。
期待が外れたことに、誰にも聞き取れない様な舌打ちを1つ。
「あれ? 大好きなオトモダチをバカにされて怒ったと思ったんだけど、ポーズだけ? それとも冷静になれば、アイツが不貞を働いた汚いヤツだって分かったんすかね? アンタの方にも覚えがあったりして!」
見え透いた挑発を、ダメ元でしてみる。ダメだった。港の手は、今度は、拳さえ作られない。
「……海里がなんでお前を大切に思えるか、オレにはちょっと分からなくなりそうだ。でもお前を殴ったら、海里が本格的に泣いちまいそうだから、止める」
そんな、ワケが分からない言葉を残して、港は教室を出ていった。
ワケが分からない。でも、陸斗には海里に関する事なんて、興味もなかった。もちろんイライラはするけど、今はそんな事より優先すべき事、優先したい事がある。
「柚陽! 大丈夫だったっすか? ごめんね、怖かったよね」
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