63 / 538
12
「ま、アンタがガキの名前を理由にするじゃ認めないって言うなら、まだあるっすよ。アイツ、ガキを優先してオレの事を平然と追い出すんすわ。ベッドもダメ、飯もダメ。今は触れたいなんて微塵も思わないし、あん時避けてくれたから余計な事を重ねなくて済んだって今じゃ安心してるんすけど、キスも、じゃれあいもダメ。なにごともガキ優先っす。どこのガキかも分からない、得体の知れない物体相手に、ああも親身になれるっすか? 遊び相手にせよ、不貞を働きまくってたにせよ、一応当時は一緒に暮らしてた人間を犠牲にしてまで」
本当はあの日々を思い出したくない。最愛の柚陽 が忘れさせてくれたからといって、マズイ飯を食わされ続けた事実は消えないし、ベッドを追いやられた屈辱もなくなるワケじゃない。
顔を合わせたくなんてないけど、貰えるもんなら慰謝料たっぷり貰って、アイツにもオレが見たのと同じような地獄を見せなきゃ、きっとイライラが完全に消える事はない。
地面に残飯みたいなメシばらまいて、それを犬喰いさせて。アイツが嫌ってそうな人種を集めて、そういうヤツ等にトんでも、延々と、まわされ続けて。復讐するなら、それくらいはしてやんないと。
でも、アイツなんかに時間を割くより、柚陽とキスしたい。交わりたい。
憎いヤツのイキ顔より、愛しい柚陽がとろけてる顔の方が見たいって思うのが、普通だろ?
だから、折角、柚陽との幸せに浸る事で、この消えない苛立ちを見ないでいたのに。
本当に海里 は陸斗にとって疫病神らしい。本人に会わなくて済んだと思ったら、港 と波流希によって、イライラさせられる。
「海里は陸斗を加害者に仕立てて、自分は被害者ぶってる……か。幸いキミの主張よりは海里の性格を信じてくれる子の方が多いから、海里と陸斗くんの破局は、噂話のタネ程度で収まってるけど。事実を捻じ曲げてるのって、どっちなんだろうね?」
そんな陸斗の内心なんてお構いなしなのか。
それとも、海里を庇いたいために、あえてやってる、性格の悪さなのか。
波流希は男子にも女子にもウケそうな、やわらかい微笑みを浮かべて、平然と陸斗の地雷を踏みぬいた。
ともだちにシェアしよう!