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「……まあ、オレはあの子を泣かせたくないし、あの子に危害を加えるヤツを許せる程大人じゃないよ。ありふれた言い訳だけど、オレは今から独り言を言う。あの子に関するね。だからもし、陸斗(りくと)くんが、これ以上話を聞いていられない、これ以上話を聞いていたら、さっき言った胸くそ悪い仕打ちをあの子にするって言うなら、もう帰って良いよ。呼び出してごめんね」  本当にありふれた言い訳だ。波流希(はるき)の言葉に陸斗は呆れた。  そもそも波流希に陸斗を拘束する権力はないし、陸斗だって不愉快に思ったならさっさと帰ってしまえば良かっただけなのだ。  手を出さない様にと自分を抑え込んでまで、ここにいる必要はなかった。自分のバカさ加減に呆れながら、陸斗は自習室を出ようと思った。  思ったのだ。  だって、アイツの話なんて聞いても胸くそ悪いし、イライラするし。それこそこれ以上聞いていたら、自分が何するか分からなくなりそう。慰謝料?誰かにマワさせる?足りない。絶対に足りない。  それなら陸斗自身の精神衛生上のために、いらん事をして柚陽(ゆずひ)を巻き込んでしまわないために、自習室を去るのが利口だと、バカでも分かることなのに。  あの時。  海斗(かいと)の由来を聞いた時のような。  ほんのわずかな部分で、ぼうぜんと、こぼれた水を見つめているかのような感情が、解せない事に陸斗の中にまた生まれていて。  それはやっぱり1割にも満たない、わずかなものなのに、そのたった1割未満は、いとも簡単に陸斗の足を縫い付けたのだった。 「独り言だから名前だって呼ぶよ? それでもここにいるって事は、陸斗くんに文句を言う権利はないからね」  騙されているにせよ、海里(かいり)を大切にしてるのは事実らしい。  波流希のありふれた言い訳は、聞くだけでぞっとするのに。海里という名前を聞くだけで、吐き気と憎悪に襲われるのは分かっているのに。  陸斗に渦巻き根付く9割以上の憎悪は、1割未満のなにかに、勝てなかったのだ。

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