68 / 538

幼馴染のひとりごと

 波流希(はるき)は「独り言だけど」と前置きした。ありふれた言い訳ではあるけど、本当に独り言といった形を保つつもりらしい。  陸斗(りくと)が知らないような話でもお構いなし。自分が勝手に呟く独り言で、もちろん自分は知ってるんだから関係ない。そんな感じの話し方だ。付き合いが長くはない陸斗では知らない話も多かったけど、波流希はいちいち説明なんてしない。まあ、独り言でわざわざ誰かに説明したりはしないけど。  もし陸斗が「それ、どういうコトっすか?」と聞いたら、波流希は教えてくれただろうか。それとも、あくまで独り言だからって無視するんだろうか。  まあ、陸斗の興味が惹かれる話はなかったけど。  波流希の事を「波流にい」と呼んで、ずっと慕っているとか。やさしいけど結構頑固で、1度決めたらなかなか譲らないとか。だから本当に「これ」と決めたら、波流希が言ってもダメで、波流希が言ってもダメなら、それはもう、他の人間にはお手上げだとか。  そんな波流希の独り言を聞いていて、苛立ち以外に感じた事って言えば、「あー、だからさっき自分の事、自分でお兄ちゃんって呼んだんすね」程度。  別に海里(かいり)がどんな人間でも、関係ない。  波流希にとってその海里が本物なら、陸斗にとっての海里は不貞を働くクズだ。それで良くないっすかねぇ。別にオレ、放っておいてくれればアイツに復讐しようとも思わないんだけど。  それなら自習室を出ていけば良いはずなのに、陸斗の足は動いてくれない。 「まあ、人には理解されにくいだろうけど、オレや、それなりに長い付き合いがある(みなと)なら、海里(かいり)が他人の子供でも優先しちゃうの、よく分かるんだよね」 「ぅえ」  波流希が漏らした、その“独り言”に、陸斗の口からは反射的に間抜けな声が漏れていた。喉を潰された鳥でも、もっとまともな声を出したかもしれない。  それに、もう憎悪しか抱いていない海里に、まるで興味を惹いたみたいな言い方。我ながら嫌になる。

ともだちにシェアしよう!