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 でもやっぱり、「気にならない」って言いきったら、それは嘘かも。  そりゃあ空斗(そらと)が来る前から、海里(かいり)には陸斗(りくと)をあしらう部分があった。「食べたい」と言った物を出してくれなかったり、陸斗が伸ばした手を払ったり。  だけど、空斗が来てからは悪化した。自分の子供が家に来て、本性を出しただけだって思えば、そうなのかもしれないけど。  吐き気がするほどの、まっずい飯を出されるようになったのも、空斗が来てからだ。  今まで不貞を働くクズの本性を、綺麗に隠していたっていうのに、なんで空斗が来てから。  騙されていたのは、確かかもしれない。騙されていたのを知って、だからイライラするっていうのは、ある。  騙されていた自分は滑稽だけど、もしかしたら、と陸斗は考える。海里が掌を返さなければ、まだ、少しはマシな生活を送れていたのかもしれないって。  柚陽(ゆずひ)と結ばれたきっかけは、海里からのひどい仕打ちだから、ある意味幸せだったかもしれないけど。  ぐるぐると考える。ムカつく。イライラする。憎い。復讐したい。でも。  陸斗の足を止めた1割未満が訴える。どういうコトなんだって。  海里にムカついている9割以上も思っていた。一応腹立つクズっすけど、柚陽との出会いをくれたとは言えなくもないし、まともな理由があるなら復讐のレベルをちょっと下げても良いんじゃないかって。  独り言だって言ったから、波流希(はるき)が教えてくれるかは五分五分。  もしかしたら「やっぱり陸斗くんも少しは気にしてくれるの?」とか「そういう中途半端なトコ、良くないよね」とかバカにされたり、説教されたりするかもしれないけど。 「な、にが……何があったんすか? あのユルユル遊び人に」 「相変わらずな言い方だね。オレが違うって否定しても、騙されてるだけだ、って言いそうだから、そのへんについては、まあ、今は聞き流してあげるけど」  実際はそのどっちでもなくて、あの、男女どっちにもウケそうな微笑みで、そう言った。

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