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「……マジでもう良いって。これ以上アンタの話を聞いてたら、アンタの独り言さえ、これ以上聞いてたら、本気でムカついて、アイツを潰さないと気が済まなくなってきてる。アンタとしても嫌っしょ? 元から遊び人だったとしても、まともな生活怪しいくらいにアヘっちゃったら」  くすっと、笑いながら陸斗(りくと)は言う。  別に海里(かいり)の痴態なんて想像もしたくないし、想像したトコで気持ち悪いだけなんだけど。でも、嫌いな人間が壊れている姿っていうのは、誰だってちょっと、にやっとしてしまうんじゃないかな。  反対に海里を大切に想っている人間なら、これを聞けば9割くらい止まってくれる。 「まったく。それ、言われてるだけでも不愉快なんだけど?」 「オレはアイツの名前を聞くと不愉快っすから、アンタもオレの1割分くらい不愉快になれば良いっす」 「オレの不快感が陸斗くんより少ないって自信を持って言い切っちゃうあたり、ある意味凄いかな? まあ、人の不快感はそれぞれだしね。ただ、1つだけ訂正させてもらって良い? 陸斗くんがオレの独り言に口を出したんだから、1つだけ、ね。他の事ならまだ聞き流してあげたし、お互い様だって割り切れたんだけど」  それは、きっと、波流希(はるき)が陸斗の地雷を踏み抜いたように。  陸斗が波流希の地雷を踏み抜いたんだと思う。  だからお互い様だなんて思わない。こっちの不快感の方が上っすもん。だからコイツの言葉なんて聞く必要がない。  そう思っていたし、そう言おうとしたのに。 「うん。聞いてくれて助かるよ」  反射的に陸斗は頷いてしまっていた。  それは、きっと、情けないけど、波流希の言葉や浮かべた微笑みに、本能的な威圧感を覚えたからかもしれない。  逆らっちゃいけない。そんな、本能が。  どうやらオレは、少なくともこの人にとっての、絶対踏み抜いちゃいけない地雷を踏み抜いてしまったらしい。  そう自覚したのは、頷いた後。波流希が浮かべる、男女両方にウケる微笑みを見てからだった。

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