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「さっきも言ったけど、海里 が弱音を吐ける相手はオレしかいなかったんだ。それは、大学生にもなって親に相談するのが恥ずかしいって言うのとは違って、海里には相談する親がいなかった」
「施設育ちってコトっすか? んで、その時から男女問わず引っ掛けてきた、とか?」
「そろそろオレも怒るよ?」
もう怒ってるじゃないか。陸斗 はその言葉を飲み込んだ。声こそ変わらず穏やかだけど、そんな返しが許される様な雰囲気じゃない。
海里に対するイライラから、つい、茶々を入れてしまったけど、よっぽど肝が据わってるか、よほどの鈍感かじゃなければ、今の波流希 を前に茶々入れなんて出来ない。
陸斗は肝が据わってるでも、鈍感でもなくて、他人に興味がないっていうのと、そんな恐怖さえ一瞬上回るくらいには海里にイラついてるってだけだ。
あー、ハイハイ。すみませんっす。続けてください。なんて感じで、適当に謝罪を投げる。
本当は話なんて聞きたくないけど、さっき恐怖に押されて頷いてしまった手前もあるし、何より情けないけど、陸斗の「どうでも良いし不愉快なだけだから早く帰りたい」って心に反して、体が本能的な恐怖で動いてくれないのだ。
だったら、とっとと話を聞いた方が利口だろう。そっちの方が、絶対早くに解放してもらえる。
「まあ、今の陸斗くん相手にそんな言い方したオレも悪いかな。正確に言えば、海里の親はいるよ。今も両親は健在。だけど親としての機能を果たしてたかって言うと、オレは頷きたくないね」
そう言った一瞬、波流希の顔が露骨に歪んだ。
本当に一瞬で、すぐに波流希は微笑んでいたから、「勘違いかな?」って思う方が自然で、そう思った方が幸せなんだろうけど。
男女共にウケる筈の波流希の微笑みが、海里への恨みを抜きにしても、もう、陸斗にとっては“恐ろしいナニカ”にしか見えなくなった。勘違いだと思うなんて無理で、恐怖は強くなって、ますます動けなくなる。
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