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どうやら波流希 は、理由はどうあれ、海里 の両親を恨んでるみたいだ。海里がよっぽど上手く波流希を騙してるのか、それともアイツの親もアイツに良く似た遊び人なんすかねぇ。
他人に興味がなくても、学習はする。いくら海里を憎んでいても、いくら海里がどんでもないアバズレでも。さっきまでの波流希を見ていれば、ここで「なるほど。アイツのユルユル加減はその両親譲りなんすねぇ」なんて言おうものなら、自分の身が危ない事くらい分かるし、それならいくら海里が憎くても、口に出す筈がない。
憎いヤツを潰すために、自分も危険な目に遭う覚悟なんて陸斗は持ってないし、柚陽 を傷付けられては、たまらないから。
「……まあ、陸斗くんの考えてる事は分かるけど。海里は違うけど、海里の両親は遊び人だったよ。他の男・他の女を連れ込む事は珍しくなかったし、まだちっちゃな海里の前でも平気で肌を合わせた。相手が異性だろうが、同性だろうがね。彼等はソレを、当たり前の様に海里に語るんだ」
別に相手が何人いても良い。好きな人がいたら結婚していても関係ない。普通にセックスだってする。子供の前でも配慮なんてしない。それが普通。
海里はそれを聞いて育ったのだろう。だから、今、他の女と作った子供を陸斗と暮らす家に連れ込み、平然と波流希や港 と、他の人間と体を合わせて帰ってくる。
……本当に?
咄嗟に湧いてきた海里への不満。その後を、疑問が追いかけた。
「本当にそうなんすか?」と陸斗に問い掛ける陸斗の声は、凄く小さい。「海里はクズだ」「海里は遊び人の淫乱だ」と恨みを叫ぶ声が、簡単に掻き消してしまう。
だけど、そんな小さな声は、陸斗の記憶を無理矢理に引っ張り出してきた。騙された自分が情けなくて、海里が憎くて。追いやっていた、記憶。
空斗 の前でイチャイチャしようとした手を、振り払った。
空斗が来てから、空斗の目に入るワケにはいかないと、行為を嫌がった。
……「あんまベタベタしてたら、空斗の教育によくないだろ。オレ等を見て変に覚えちまったら、空斗にも、親御さんにも申し訳ないし」。あれは、本当に、もしかしたら。
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