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 そして海里(かいり)は、「一般的な家庭で育った子供」らしい子供になったらしい。1番身近で1番心を許してた波流希(はるき)の家が。小説やドラマで見る家庭が。そっちが普通で、自分達の家は「崩壊してる」っていうのを、知ったのだ。  海里は、やさしい子だから。  自分の子供時代が、おかしいと知っていたから。  だから、他の子供にもそうしてしまおうとは、思わなかった。  せめて、かりそめであっても、一時的であっても、自分の家に来たなら、育て方を気を付けようと思って。 「だけど、……言いたくないけど、しょせん、海里の知識は実感を伴ってないからね。空斗(そらと)に関して、陸斗(りくと)くんの目から見ればもちろん、オレや(みなと)の目から見ても空斗を優先し過ぎてるようには見えたと思う。気を付けなきゃ、気を付けなきゃって必死になって」 「自分の子供じゃなくても、んな、気を遣えるんすか? オレは親相手にも無理だったし、自分のガキにも出来る気、しねぇっすけど」 「今の陸斗くんじゃ認めないかもしれないけど、海里は、やさしい子だから。自分みたいな子は増やしたくない一心なんじゃないかな?」  一緒に暮らしている陸斗と海里が、イチャイチャしてる事で。  体を重ねてる事で。  それを万が一に空斗が見てしまって、ショックを受けたら。「恋愛って、一緒に暮らすってこういうコトなんだ」と思ってしまったら。  多分、同性同士っていうのも、あったのかもしれない。  自分がそうだったから、海里は余計に、空斗の前で接触するのを嫌がった。  でも、「崩壊してる家庭」を普通だと思ってほしくなかったにしては、逆に素っ気なさすぎる。冷たくて交流が無いのが、普通だと思ってしまうかもしれないと、考えなかったんだろうか。  海里を否定するために、陸斗は考える。けれど、その答えを陸斗は見付けていた。波流希も言ってたじゃないっすか。しょせん、実感がないって。だから加減が分からないんだ。  海里の事を、陸斗はまだ憎んでいる。憎み続けるには、ちらっとでも理解しちゃいけない。彼が遊び人であるっていう事を分かってなきゃいけないし、あくまで海里が陸斗に冷たく接したのは、ソーイウ理由に基づいてなきゃいけないのに。  陸斗は自分の中で、海里の“あの態度”を、納得しかかっていた。

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