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 海里(かいり)空斗(そらと)の好みに合わせた料理ばかりを作る理由。  波流希(はるき)の言葉を信じるのなら、海里は崩壊した家で育った。知識として得た「一般的な家庭」を空斗にも感じさせようと、自分みたく「間違えた家」で育たない様にって、やり過ぎに思うくらい、接触に気を付けていた。  まだ幼い海里の前で、不貞を働いて平気な両親。それが、仮に100パーセント本当なら。  果たして、彼等は、海里の食事に気を遣ったんだろうか。 「……まさかアイツ、ガキの頃、まともな食事をしてない?」 「半分当たり。オレの家でご飯にした時は、まあ、まともだったと思う。別に腐った物を食べさせたりしたワケじゃないんだけどね。用意されない、自分で作る事も許されないってコトは珍しくなかったし、子供の口じゃ食べられない様な激辛とか、熱い料理とか、強引にねじ込まれたらしいし。だから海里は、陸斗(りくと)くんが今、嫌ってる“子供向けの料理”って、一切食べた事がないんだよ」  だから空斗にガマンさせたくない。だから空斗に、無理に辛い物を食べさせたくない。  そんな考えは、海里が陸斗を追い出したかったのだ、なんていうものより、しっくりきてしまって、海里への恨みが薄らいでしまう。止めて、オレはアイツを恨んでるんすよ。  柚陽(ゆずひ)の方が遥かにやさしくて、オレの好きな物だって作ってくれる……そうだ。 「つーか、それは関係ないんじゃないっすか? アイツ、ガキが来る前からオレのリクエスト、よく蹴ってたし」 「それは海里がやさしくて、陸斗くんの事を好きだからだと思うんだけど」 「……は?」

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