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 最初、咄嗟に海里(かいり)の首を掴んだ時。  あの時はまだ、咄嗟の事と言っても、陸斗(りくと)に目的は残っていた。「柚陽(ゆずひ)をこんなメに遭わせた人間への報復」という目的が。  でも、今の陸斗にそれはない。  ただ、目の前の人間を、陸斗にとってはゴミ以下に成り下がった海里を、どうやって処分するか。どうすれば、コイツは苦しむのか。嫌がるのか。それだけ。  それだけ、だったから。 「りっ、りっくん! もう良い、もう良いよ!! オレは大丈夫だし、これ以上やったら海里くんが死んじゃう!!」  そう叫んで、陸斗の腕を抑える、小さな手。  邪魔をする手が鬱陶しくて、幼い声が耳に痛くて、海里の首は絞めたままに、目線を声の方に向ける。  ガキが、いた。 「うざいっすよ。邪魔しないでほしいっす」  冷たく言い放って、腕に纏わりつく子供を振り解く。弾みで海里の首から手を離す事にもなってしまった。海里の咳き込む声が汚らしくて不愉快だ。それに邪魔をしてきたガキも、と。  目線をそっちに向けて、陸斗はハッとする。ガキ、も?  ここは陸斗の通う大学で、子供が、空斗(そらと)が入ってこられる筈がない。じゃあ、今のは。  おそるおそるそっちを向けば、廊下にへたり込んでいるのは、幼く小柄な。幼さを感じさせる目を、まんまるに見開いた、柚陽。

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