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自分が柚陽 を突き飛ばしたのだというのを、陸斗 は理解した。
いくら海里 への復讐を邪魔されたとはいえ、大切で大好きな柚陽を。そもそもこれは、柚陽に手を出された事への報復だったのに。オレがこんな事してどうするんすか。
でも。
そんな自責の念を打ち消すように、陸斗は思う。でもあの一瞬、冷静さを欠いた陸斗の目の端に映った姿は。
確かに柚陽は童顔で小柄。子供に間違えられる事は珍しくないけれど、空斗 の様な、まだ小学校に通っていないくらいのガキでもない。
さすがにちらっと見ただけでも、そこまで勘違いする程では無いはず。
じゃあ、なのに、何で。
陸斗は思わず頭を抱えていた。なんで、オレは、大好きな柚陽が、あの憎たらしいガキに。
「りっくん、ごめんね。オレのために怒ってくれてたのに。でも、オレ、りっくんが殺人犯になっちゃわないか、心配で」
柚陽が、いつもの様にやさしく声を掛けてくれる。どっか幼い声。
───……「でも、陸は海ちゃんのお料理が好きだから、とられちゃうかも……」
「ありがと、柚陽。でもちょっと黙っててほしいっす」
「あ! ごめんね、りっくん。黙ってるけど、オレに出来る事があったら、何か言ってね?」
「やっぱごめん、1つだけ」
「なに? オレ、りっくんが大好きだから、なんでもするよ?」
……何で、空斗に見えたんだろう。
「1回だけ、オレの事、陸って呼んでみてくれないっすか?」
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