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「止めろって、(みなと)。お前が怒るコトじゃない。手も放せ」 「だけど、海里(かいり)」 「何すかぁ? いつでも傍にいてくれて、いつでも体合わせてくれる人間が退学になったりすんの、やっぱ淫乱にはウズいて辛い?」  海里への苛立ちと、港への挑発を込めて言う。「テメェ」。港が吐き捨てた言葉に、衝撃に備えながらも、今度こそ、と期待をするが。 「いい加減にしろって、港。オレは大丈夫だから」  海里の言葉で、港は完全に陸斗(りくと)の手を放してしまった。陸斗の方を睨みながらも、陸斗と距離を開き、今度は海里を背中に庇ってる。  ……ああ、本当に邪魔っすねぇ。陸斗は苛立ったまま、けれどどうにか笑顔を浮かべた。  急いでも良い事はないし、海里は徹底的に潰さないと気が済まない。なら、ここで挑発していても仕方ないだろう。それに、こんな事で柚陽との時間を奪われるなんて、絶対にごめんだから。 「まあ、アンタはクズに心酔して、人生狂わせてほしいっす。どーせこんなクズ、正しい愛し方なんて知らねぇんだから。ただ、具合が良いって言うなら無理に止めないっすけど、せいぜいオナホ程度のお付き合いの方が良いと思うよ? こんなゴミと付き合ってると良い事ないし。ただ、セーヨク解消のお人形として扱うくらいが良いんじゃない? これはオレのやさしさっす」  手が自由になった事で、柚陽(ゆずひ)の手を握る。するっと、くすぐるように指を絡めれば、柚陽は大げさな程に体を揺らして、「んっ」なんて小さく声を漏らした。  もう、貞操観念ユルユルのゴミクズがいるっていうのに、狙われたらどうするんすか。それともオシオキして欲しいのかな?  海里への恨みは残っているものの、折角の柚陽との時間、そんなことを考えているのは、もったいない。  柚陽の方だけを見つめて微笑めば、柚陽もどっか熱を孕んだ笑顔を返してくれた。……ちょっと今日は余裕のない行為になりそうだ。  ごめんね、柚陽。でも人前でとろけた顔を見せたオシオキも含んでるから、セーフっすかね?  思いながら、陸斗は柚陽と家に帰る。もう、背後のナニカに、興味なんて一切なかった。

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