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「……ねぇ、りっくん」
朝食を食べる柚陽 の手が、ぴたっと止まって、陸斗 は不安になる。「おいしい!」「嬉しい!」と喜んでくれてたけど、本当は美味しくなかったんだろうか。一応自分で食べていても、変な味はしなかったけど。
でも柚陽はド天然で、良くも悪くも、凄く素直。多分マズイ物を「すっごく美味しいよ!」なんて満面の笑顔で食べられるタイプでは、ない、はず。でもやさしいから、それはそれで心配だ。柚陽にマズい物を無理して食べさせたくなんてない。
あわあわ。そんな効果音さえ伴う勢いで焦る陸斗に対して、柚陽は冷静だ。
冷静と言うより、静かに、項垂れてるようにも見える。しゅんとして。何かを、言おうか止めようか悩んで。
いつも素直で、明るく無邪気。すさまじい童顔で小柄といった見た目に似合う、子供っぽい柚陽にしては珍しい仕草で、新しい魅力にドキッとしつつ、何を言われるのか、嫌なドキドキも感じてしまう。
柚陽。
声を出すのは、陸斗より、柚陽の方が早かった。
「りっくんは、オレの事、嫌いじゃない? 軽蔑とか、してない?」
昨日の余韻を残した、色気のある掠れ方をしている声で、柚陽は,ぽつり、おかしな事を聞いた。
なにか切り出されるのかっていう嫌なドキドキも、料理がマズかったのかという焦りも、それで簡単に吹き飛んでしまった。
「は?」なんて、口を間抜けに開けた格好のまま、思わず固まってしまう。この子は、なにトンチンカンな事を言い出すんすか?
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