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でも柚陽 は本当に不安そうで、普段は無邪気にキラキラ光っている大きな目も、今にも泣きそうに揺れていた。
膝の上に置かれた手も震えていて、でも、そんな震えを抑えようとするように、もしかしたら、陸斗 がなんて言っても耐えられるようにと、ぎゅっと握られている。いじらしい。ぎゅってして、頭を撫でて、「大丈夫っすよ」って繰り返してあげたい。「大好きっす」「愛してるっす」って、この気持ちを伝えたい。
多分、そうするのは簡単だ。良くも悪くも陸斗は自分の気持ちを伝えるのに躊躇いがないし、柚陽になら何度だって愛を囁きたい。
「私のこと、好き?」そう聞く女が面倒くさいというのは、世間でよく聞く話だ。もちろん、陸斗は、そんな事1度だって聞かれれば、うんざりして「大嫌いっすよ」と吐き捨てる。でも聞いてきた相手が柚陽なら、何度だって「大好きっす」を繰り返したいって思うのだ。
でも、なんだろう。今は、それじゃダメかもしれない。陸斗はワケも根拠もなく、そう思った。
柚陽の事を好きだって伝えてる。言葉でも、態度でも。
第一、陸斗には好きでもない人間を抱くシュミなんて、ありはしない。押しかけてくる女、無理に既成事実を作ろうとするアバズレ。全員を全員、時には褒められない手段で追い返してきた。
海里 とはソーイウ事をしているものの、騙されていて、忘れ去りたい最大の汚点とはいえ、あの時の陸斗は海里が好きだったから、体を重ねたのだ。
そんな陸斗の性格を分かっていそうなのに、体を繋げた翌朝に、そんな事を聞くと言う事は、きっと「好きっす」なんて繰り返すだけじゃ拭えない不安が、柚陽にはあるんだ。
そう考えて、陸斗は微笑む。とびきりやさしく。そして、とびきり穏やかな声で切り出した。
「好きっすよ。愛してるっす。……でも、どうしてそう思ったのか、聞いても良いっすか?」
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