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 陸斗(りくと)の言葉に、柚陽(ゆずひ)の手は、更にぎゅっと、強く握られた。でも、そうしていても隠しきれないくらいに震えている。大きな両目からは、今にも涙がこぼれてしまいそうだ。それを堪える様に、柚陽がぎゅっと唇を噛んだ。  なにか躊躇って。それでも覚悟を決めたというように、柚陽の顔が上げられる。  大きな両目は、相変わらずウルウル泣きそうに震えてるけど、今はまっすぐに陸斗を見つめている。 「オレ、りっくんと海里(かいり)くんの邪魔をしたんだよ? 自分がりっくんと付き合いたいばっかりに、りっくんと海里くんの関係を、壊したくて、壊したんだよ?」  海里。  柚陽の口から出てきたその名前にはイラっとするけど、表情に出すのは何とか堪えた。だって、柚陽を怒ってるって思われたら嫌っすもん。  胸くそ悪いってヤツだったけど。吐きそうな程の憎悪に襲われたけど。いつか絶対してやると決めている復讐、その方法を思い浮かべる事で、どうにか苛立ちは治めた。  でも、あんなクズの事を心配するなんて。やっぱり柚陽はやさしいっすねぇ。 「これっぽっちも。まるっきり気にしてないっすよ」 「……え? で、でも、りっくんの生活環境を悪くしたのも、オレなんだよ?」  陸斗の言葉が予想外だったのか、柚陽は目を白黒させて、信じられない、と言わんばかりの表情だ。万が一にも有り得ないけれど、陸斗が「恨んでるっす」と言った方が、堪えきれずに涙を零したかもしれないけど、納得はしたんじゃないかと思ってしまう程の驚きっぷり。  そんな柚陽の、ふわふわの髪をやさしく撫でて、陸斗はもう1度伝える。 「気にしてないっすよ。……まあ、ガキのウザさや、吐きそうなメシしか出されない冷遇っぷりには、ちょっと参ったけど、それは柚陽がしたワケじゃねぇし。そのおかげでアレが最低最悪のゴミムシビッチだって分かったし、何より柚陽と結ばれる事が出来たんだから」 「で、でも、それは、オレがりっくんとラブラブになりたくて、そう仕組んだからだもん! オレが自分のワガママで動かなかったら、今頃りっくんは、ちゃんと海里くんと」 「あー、柚陽? それ以上は言わないでほしいっす。さすがのオレも、ちょっとムカッとするんで」  思わず苦笑を1つ。でも、内心は結構余裕がない。その続きは想像なんてしたくないし、柚陽の口から聞きたくもなかった。それを言われた日には、後先考えずに、海里の事を殺してしまいかねない。  柚陽が慌てて口を閉じたから、陸斗も苛立ちは懸命に振り払う。

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