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 折角手に入れた幸せは守らないと。1つ1つを噛み締めないと。  周りがそれを壊そうとするなら、どんな手を使ってでも阻止しないと。  手に入れた幸せ、という言い方は、少しだけ正しくないというのを、陸斗(りくと)も自覚してる。  自分はただ、騙されていただけだ。それを幸せだと思い込まされて、最後には辛くてヒドイ生活を強いられて。それでも、自分で打破しようとはしなかった。陸斗のした事はせいぜい、吐き気のする食事から、そんな劣悪な家から逃げる事だけ。  そこで溺れている陸斗に手を伸ばして、やさしさと、あたたかさをくれたのは、柚陽(ゆずひ)だ。  柚陽本人は「自分のせいで壊してしまった」と時に落ち込んでいたけど、陸斗としては感謝してる。だって柚陽は、そこまで自分を求めてくれたから。柚陽のおかげで、騙されている事に気が付けたから。  陸斗が今、幸せなのは、自力で何とかしたからじゃない。  柚陽が、嫌っている子供を使ってまで、嫌われ役になる危険を冒してまで、陸斗を助けてくれたから。陸斗の手に、幸せを与えてくれたからだ。  それなら、その恩返しとして。何より、恋人として。  柚陽がくれた2人の幸せを、守り抜くのが陸斗の務めだろう。  とは言え、他人の興味なんて、そう何日も続くものじゃない。  いくら海里(かいり)が、表面上は、周囲からの信頼も厚い、誰からも好かれる様な子だったとしても、他人のために怒り、コソコソとしてるのは、延々と出来る事じゃない。長くても数週間を耐えれば、「ああ、またやってるよ、あのバカップル」なんて認識になるものだ。  だから、お節介で勘違いの他人は、そうなるまで、全力で守れば良い。  だけど、お節介で勘違いの他人の中には、何日も、それこそ延々と陸斗と柚陽を怒り続けられる人間がいる。(みなと)波流希(はるき)。逆恨みも良いトコっすけど。  それに、やっぱり、まだ、復讐を果たさなければ、陸斗の気分は、完全には晴れてくれない。

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