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「今、幸せか?」と聞かれれば、陸斗 は自信を持って「幸せっす」と答える事が出来る。でも、本当の本当に幸せなのかと念を押されれば、素直に頷けないのも事実なのだ。
陸斗と柚陽 の幸せを壊そうとしている人間がいる。逆恨みで、勘違いも甚だしいけど、自分達が盲信するクズのためにって、歪んだ正義を掲げる2人の厄介者が。
陸斗の中にモヤは残ってる。あのクズに騙されて、うっかり「好きっすよ」なんて口走ってしまった、苦い過去。騙されていた事への屈辱や、憎悪は、柚陽のおかげで感じない日もあるけれど、確かに胸にくすぶって、陸斗の中で生きている。ふとした拍子に思い出してしまって、怒りで胸を焼き尽くす。
柚陽との幸せに、そんな危険はいらない。
柚陽との日々に、あんな恥ずべき過去はいらない。
本当の安らぎと幸せのために、海里 への復讐はなんとしても果たさないと。
「柚陽。大好きっすよ。柚陽を傷付けるヤツは、オレが容赦しないっすから、ちゃんと言ってね?」
「うん! でもりっくんも無理はしないでね? オレじゃ頼りないかもしんないけど、オレもりっくんの敵は、頑張ってやっつけるから」
まだまだ子供っぽい、大きな目を、正義感と覚悟でキラキラ輝かせる。小さな子供みたいに無邪気で、でも、ガキの様な気持ち悪さなんて微塵もない。そもそも子供が無邪気っておかしいっすね。あんなの、ほんと、キモチワルイだけっす。
文字通り、「邪気が無い」って言うなら、その言葉がふさわしいのは、柚陽だけだ。思いながら柚陽の、ふわふわした髪をやさしく撫でる。
さっきまでの正義感と覚悟はどこへやら。撫でられて気持ち良いのか、柚陽の目は細められて、とろんとした顔になる。
まだ健全寄りだけど、あの淫乱クズはもちろん、どこで誰が狙っているか分からない。「ダメっすよ」。敢えて声を低くして、柚陽の耳元で囁いた。
「オレが撫でて、キモチヨクなってくれるのは光栄っすけど、そのお顔を、こんなトコで見せたらダメっす。またオシオキ、しちゃうっすよ?」
「だって、りっくんの触り方、気持ちいいんだもん。……でも、オシオキも、ちょっとだけ期待してるかも。りっくんを、いっぱい、感じられるから」
「まったく。柚陽はオレを煽るのが上手っすねぇ」
柚陽の、少し甘える様な声に、つい熱が集まってしまう。かわいくて、許しちゃおうかなと思うけど、それはそれ。これはこれ。今、医務室か自習室、空いてるっすかねぇ。ぼんやりと考えながら、普段より熱を持った手で、柚陽の頬を撫でる。片手は、柚陽の指に絡ませた。
「このあと、1コマ、課外講習しちゃおっか?」
「うん」
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