108 / 538

「……痛いんすけど」  ヒリヒリと痛む手を、慌てて引っ込める。あのまま無視して伸ばしていたら、(みなと)に引っ掛かれていてもおかしくなかった。そんな恨みも込めて、陸斗(りくと)は強く睨んだ。  港からも睨み返されるけれど、だから睨みたいのは、こっちなんすけど。 「悪い。オレが悪いから港には何もしないでくれ」  深々と頭を下げられても、特に何も思わない。いや、これを蹴飛ばしたり、地面にめり込む勢いで踏み潰して良いなら、まあ、手を弾かれた事くらいは不毛にするっすけど。  まだ頭を下げたままの海里(かいり)に、本当にそうしてやろうかと足を上げたところで、 「りっくん」  ちょいちょい。遠慮がちに服を摘ままれて、引っ張られる。  そうなればもう、海里も港も興味が無い。慌てて柚陽(ゆずひ)へ視線を向けた。 「どうしたんすか? 柚陽。なんかされた? ゴミとか、アイツが、変な目で見てきたっすか?」 「ううん、それは大丈夫だよ。ただ、海里くん達も用があるから、オレ、自習室でも良いよ?」  こてん。いつもの様に柚陽は首を傾げる。確かにそれはそれで魅力的だけど、ベッドが空いてるのに柚陽にそんな事させられない。  机の上とベッドの上じゃ、どっちが負担にならないかなんて、分かりきってる。  それに、柚陽が「良いよ」って言ってくれて、行為のあと、めいっぱい労わるとして。そーいう普段とは違うシチュエーションに魅力を感じても。  海里達のせいでベッドを使えないっていう事が、陸斗にとっては我慢できなかった。

ともだちにシェアしよう!