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 ぎゅっと、陸斗(りくと)柚陽(ゆずひ)を抱きしめる。  本当柚陽はやさしいっすねぇ。あんなクズ共の心配を気にするんだから。  やさしく抱きしめたまま、そっと頭を撫でる。耳の裏をそっと擽りたいけど、ガマン。柚陽が物足りなさそうな顔で陸斗を見つめるものの、断腸の思いで理性を総動員。耐える。  だって柚陽、人がいてもすぐ、とろんとした顔、しちゃうんすもん。普通の人間ならまだしも、嫌だけど、まだ、まだ目を瞑れても。「オレのっすよ」なんて見せつけてやれても。さすがに、この2人の前では無理だ。  性にグズグズな家庭で育って、自分自身も性にグズグズな海里(かいり)と。その海里に盲信してる(みなと)。最悪な組み合わせでしかない。 「柚陽が気にする事じゃないっすよ。こんなヤツ等、とっとと追い出すんで」  柚陽を抱きしめたまま言って、名残惜しいけど、そっと柚陽から離れる。  この先をスるには、邪魔者を追い出さないといけない。陸斗はジトっと、海里を見下す。 「一応ゴミクズでも、理解力くらいは、あるっしょ? そーいう事だから、今すぐココから出てって欲しいっす。男とでも女とでも、よろしくすんならヨソでどーぞ」 「さすがに人の横でヤるほど、グズグズじゃねぇよ。オキレイなフリもしにくくなるし、な」  海里の、一応整ってはいる顔立ちが、醜悪に歪む。恋人のいる相手とも平気で寝て、平気でポイしてしまうような。  誰がどう見ても、貞操観念グズグズだって分かる様な顔。  その顔をまともに見てしまった事で生まれた吐き気は、本当に辛うじて堪えた。せっかくの行為を、海里のせいで台無しになどされたくない。  港に肩を貸してゆっくり立ち上がる光景は、あまりに大袈裟過ぎて、腹が立つ。舌打ちを1つして、急かす様に港の背中を押した。  あてつけの様にゆっくり出て行く腹立たしい背中を睨みつけながら、「やっぱり」陸斗は思う。  柚陽との幸せ。柚陽との平穏のために、自分の中にある憎しみも邪魔だし、あの3人も邪魔だ、と。

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