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 教室。自習室。図書室。テラス。思い当って、自由に行ける範囲の部屋は覗いてみたいけど、目的の姿は見当たらなかった。別に「会いたい」と思ってるワケじゃないけど、どうして避けてる時は、ああも遭遇するのに、会おうとしてる時には会わないのか。  やっぱり無難に医務室だろうか。陸斗(りくと)は思い浮かべる。校内で淫行に勤しむには、1番ベタだし、ベッドもあって便利な場所。  アイツ、外面が良いから「調子悪いんですけど、人がいると落ち着かなくて」なんて訴えれば保険医は席を外すだろうし、なんなら手っ取り早く、保険医とヨロシクしてるかもしれない。  乗り込むのも良いっすけど、相手が(みなと)波流希(はるき)じゃなければ不利になるのはオレだ。なんでみんな、あのゴミクズの言い分を信じるんすかねぇ。  それでも結局陸斗は医務室に向かっていて、扉へと耳を当てる。陸斗の方が不審者な光景だけど、仕方ない。誰かにコソコソされたら、相手を睨んでやれば良い。  陸斗の目は基本冷たいから、ちょーっと睨むだけで分かり易く怯えてくれる。うざったいけど、追い返したい時には便利。  とは言え、今、医務室のあたりには誰もいなかったけど。  声が聞こえないのは、誰もいないからか。疲れて眠っているからか。声を殺してヤッてるのか。それとも中の声が聞こえないくらいに扉が厚いのか。  チッ。舌打ち1つして、苛立ちを込めて握り締めた拳を、扉に打ち付けた。  ぐわん、という音と、ヒリヒリと痛む拳。「今日、できれば今日中になんとかしねぇといけないのに」。そんな焦りが、声に出る。

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