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「それで? お前はいつまで、海里(かいり)にあんな嫌がらせを続けるつもりだよ?」 「嫌がらせ?」  意味が分からない。陸斗(りくと)は思わず(みなと)の言葉を繰り返した。誰が、誰に?  なんかコイツの言い方だと、オレがあのクズに嫌がらせをしてるようにも聞こえるんすけど。そうだとしたら不愉快だ。陸斗は露骨に顔を歪める。  嫌がらせを受けているのは、こっちの方だっていうのに。  騙していた間だけじゃ足りないのか、本性が露見してからも、陸斗に対して嫌がらせばかり。柚陽(ゆずひ)との邪魔をしたり、あろうことか、柚陽を襲いさえもした。  つーか襲ったのは、もはや、嫌がらせじゃなくて、犯罪じゃないっすか?未遂で済んだみたいだけど、柚陽は怖がっていたし、「未遂で済んだから犯罪じゃありません」なんて事がまかり通ってたまるか。  思い出して怒りがまたこみ上げる。自然作った拳が、怒りを堪えるためなのか、港を殴る準備なのか、もう陸斗には分からない。  分からないけど、どっちでも良かった。ここは密室、2人きり。他に誰も見ていない。  要は、陸斗に殴られたと、思わせなければ、それで良いのだ。  そんな事、波流希や海里にさえ、言えないような目に遭わせれば。……オレの気は乗らないっすけど、これも幸せを得るためのガマンっす。 「参考までに聞いてあげるね。誰が、誰に嫌がらせしてる、って?」 「お前が海里にしてる事が嫌がらせじゃないなら、なんだよ? それとも犯罪の域に入ってるって、自覚してんの?」 「犯罪者はどっちっすか。柚陽にあんなコトして。可哀想に柚陽、すっげー怯えてたんすよ」 「お前に言っても信じないだろうけど、アレは柚陽の自作自演だぞ!? 見え透いてるじゃねーか」  陸斗が自覚したのは、「カッと頭が熱を持った」事だけだった。

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