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 (みなと)は、咳き込みながら、陸斗(りくと)を睨み付ける。肩のあたりを机にぶつけたのか、片手で肩を抑えて。ゼェゼェと汚い息をしながら、座り込んだ姿勢で。  呼吸を封じられていたのもあってか、港の目には生理的な涙が浮かんでいた。  目に涙を溜めて、上目遣い。  なるほど、コレをしてくれたのが柚陽(ゆずひ)だったら、どんなに幸せだろうか。  陸斗の理性なんて一瞬で消し飛んで、激しく、でもやさしく、抱いたに違いない。  でも今そうしているのは、海里(かいり)に盲信している1人の男。顔立ち自体は、海里が遊び相手の中でも好んでいるだけあって、ソレナリに整ってるけど、柚陽の様なかわいらしさとは程遠い。  つーか、こんなのと柚陽を一緒にしたくもないっす。  だから港のそんな姿を見たところで、吐き気や怒りこそ湧いてきても、欲情なんて微塵もしない。  それでも、波流希(はるき)達への告げ口防止となれば、これくらいしかないだろう。 「お前、……ケホッ、マジで、柚陽ばっかに入れ込むな、って。お前の方が、よっぽど盲信してる、っつーの」 「まだそんなコト言う元気があるワケ? バカは死ななきゃなんとやら、って、本当みたいっすねぇ」  港へと近付いて、視線を合わせる様に陸斗も屈む。……ああ、本当、ユウウツなんすけど。  まだ何やら喚く港を無視して、陸斗は港のベルトへと手を伸ばす。散々アイツとシてきてるから、オレの意図も分かってるハズなのに、逃げようとしないあたり、もしかしたらこれじゃ口止めにならないっすかねぇ。  それとも打ちどころが悪かったんだろうか。顔を顰めてるし、そうかもしれない。ていうか、そうじゃないと困る。 「その、気持ちを、ちょっとでも海里に向け、ろって。お前、海里の過去を聞いたんだろ……」  頭に血が上って、ぱあん、と高い音が1つ。 「ヒドくされたい、って言うなら別っすけど、そうじゃないならもう、そのクズの名前、出さない方が良いよ。アンタに辛うじて持ってた同情心、だんだん無くなってきてるしさ」  カチャカチャと、「これからされるコト」を認識させるために、派手に音を立ててベルトを外す。  外したベルトは適当なところに放り投げて、吐き気をこらえながら、下着ごとズリ下げようとズボンに手を掛けた。

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