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 (みなと)の顔がますます青くなって、何か言いたそうに口が動くけど、言葉にならない。  元はと言えばコイツも、あのクズに騙されただけなんすけど。そう思うと少し可哀想に思えてしまうけど、柚陽(ゆずひ)と幸せになるために、放っておけない存在であるのも確かだ。  陸斗(りくと)には、そうでもして海里(かいり)を守りたいと思う気持ちが理解できないけど、港がそう思ってるなら、利用しないテはない。 「さ、アンタはもう帰って良いよ。背中とか、色々、痛かったでしょ。ごめんね。湿布とか貼った方が良いかもしれないっすよー」  浮かべた微笑みをなるべく崩さないようにして、出来る限りやさしい声を出すようにして。  そんな事を意識しながら港に声を掛け、手を弾かれてもめげずに、苛立たずに、半ば強引に手を貸して港を立ち上がらせる。ケッコー手酷くしちゃったから、少しの間痛いかもしれないけど、多分後遺症が、ってほどじゃないと思うんすよね。  だから背中を押して自習室から追い出しても良いのだけれど、あえて丁寧に扉へと誘導する。よっぽど陸斗と海里が行為に及ぶのが嫌なのか、抵抗されていたけれど、力を入れる場所を意識すれば、人の体なんて意外と簡単に動かせてしまうんだ。  力で抵抗しても無駄だと思ったのか、「オレにしとけって」「そこまで損させないと思うけど」なんて、粗末な誘いの言葉を掛けられたけど、ちっとも揺るがないっすね。  盲信してて毒されてるからって、残念ながら、その辺の技術は似なかったらしい。 「アンタ、誘うにしてもヘタクソっすよ。そこだけは、あのクズの方が優れてるかも」  口に出した途端、港は陸斗を、目的はどうあれ誘っていたのを忘れて、いつも通りの文句を口にしたけれど、陸斗は聞き流す。  初めからそのつもりで侵入してきたんだろう、自習室の鍵は港が出やすいように、開いていた。  片手で扉を開けて、少し雑に港を廊下へと追い出す。足を挟まれたりして阻まれるより先に、扉を、ぴしゃりと閉めて、鍵もしっかり掛けた。ドンドンと扉を叩かれるのがうるさいけど、無視を決め込む。 「オレを選んでもらえて、光栄だよ」  その音を気にも留めずに言う海里の微笑みに、吐き気を感じながら。それでも陸斗は、なんとか堪えて、笑みを返した。 「まあ、復讐の大本命はアンタっすからねぇ。遊び人のアンタでも、根をあげるくらい、潰してやるっすよ」

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