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僅かに乱れた自分の服を整えながら、陸斗 は床を見下ろす。入ってきた時には机が綺麗に並んで、床に埃の1つも落ちていない、見慣れた自習室だったけど、今はすっかり、荒れていた。
机と椅子はあたりに散らばっているし、いくつか倒れているものさえある。誰かが教室内で、子供の様に騒いだ様な有様だ。
そして何より違うのは、さっきまで綺麗だった床に、大きな粗大ゴミが転がっている事。
ゴミに触れる様な趣味はないけれど、爪先で少しだけ突いてみれば、びくっ、と動いて気持ちが悪い。びくびく動くゴミなんて、誰だって不気味に思うだろう。蹴り飛ばしたけれど、粗大ごみなだけあって、質量もそれなりなのか、床を転がる事もなかった。
「まあ、このニオイで、その醜態じゃ、誰にも、なんにも、誤魔化せないっすよねぇ。まあ、精々困ってほしいっす。……で? ちょーっとは、柚陽 の気持ちが分かったんすか?」
粗大ごみに話し掛けるって、我ながらイタイ事してるっすねぇ。自覚はあるため、陸斗は苦笑を1つ、漏らした。もちろんだけど、粗大ごみが返事をするワケがない。「答えろよ!!」けれど陸斗は激昂して、叫び声を上げながら、足を思いきり振り下ろした。
ゴリッ、という硬い感触のあとで聞こえるのは、「ぐっ」なんていう、汚い声。陸斗は身を屈めて、いやいやながらそのゴミへと手を伸ばす。本当に嫌で嫌で堪らないけど、もう今更っす。あとで念入りに手を洗っておこう。
涙と涎、それから体液で、まだ「整っている」と言えなくもない顔を、ぐちゃぐちゃに汚らしく汚した海里 の髪を鷲掴みにして、無理矢理顔を上げさせる。
とろんとした目は虚ろ。本当にゴミかと錯覚するほど、汚らしい。起きているのか寝ているのか、陸斗を見ているのかさえも、定かじゃない。それが少し苛立って、髪を掴む手に力を込めた。
「答えろよ。分かった? 柚陽がどんだけ辛かったか。怖かったか」
「わか……た、から…」
「ま、それもどこまで本当か、分からないっすけど、ねぇ」
ぱっ、と髪を掴んでいた手を離せば、勢いを殺すだけの気力もないのか、ひどく鈍い音が空気を僅かに揺らした。また、海里の虚ろな目が揺れる。
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