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 ガラッと、あえて音を立てて扉を開けた。鼻歌はそのまま、でも、警戒だけはしている。「おっと」思わず漏らしたわざとらしい声さえ、テンション高く弾んでいた頃で、陸斗(りくと)は、自分が思った以上に上機嫌だと分かった。  警戒はしておいて正解。扉が開いたと同時に、(みなと)の拳が飛んできた。ほんと、手を出さないっていうのは、どこに行ったんすかねぇ?  陸斗が避けた事で、勢いが付いた港の拳は、自習室の扉を揺らす。港の方も痛かっただろうけど、ハイになってればそんな痛みは感じないのか、平然と陸斗を睨み付け、それでも「先にすべきこと」を見失っていないのか、自習室へと入ろうとする。  陸斗にとって1番の懸念事項が、コレだ。  鍵を掛けておけば港達が部屋に入る事はないものの、折角連絡先を知っておいた彼等を呼べなくなる。窓の方を開けておいても良いけど、それだって波流希(はるき)あたりに気付かれてしまうだろう。  陸斗が出てくるまでで盲信から覚めてくれていれば良かったが、そうでない彼等が海里を助けに自習室へと向かうのは、ほぼ確実だった。  だから、あえて、わざわざ、あのゴミの前で聞こえよがしに電話をしてやったんすよ。 「一応警告してあげるけど、あのゴミにまだ盲信してるなら、入らない方が良いと思うよ?」  港は、陸斗の親切心を無視して扉に手を掛けようとする。  今、海里はきっと怯えているだろう。騙された過去がある以上100パーセントの自信はないが、それだけの事を陸斗はした。そして極めつけに、団体客のご案内。精々マワされて、袋叩きにされてね、なんて事を言い捨てて。  そうなれば、陸斗にとって想定内だった港の奇襲。それを避けた結果、それなりに派手な音を立てた自習室の扉は、室内の海里にどれだけの報復になっただろう!ああ、考えるだけで笑えてくるっす。 「あのゴミは、そろそろ団体のオキャクサマをおもてなしするんすけど。ゴミの分際ですっげー嫌がって怯えていたから、さっきの大きな音で、なにかのスイッチ入れちゃったかもしれないし」 「テメェ、陸斗! お前は、お前は!!」  ニヤッと、勝ち誇ったような笑みを1つ。正義はいつだって勝つんだから。  分かり易い挑発だけど港は乗るだろうし、それでも海里の所に行くのであれば、強制的に隣の自習室へ連行するだけだ。  結果、躊躇って、躊躇って。  港は、まだ上機嫌に、今度は歌さえ口ずさむ陸斗の後を追ってきた。

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