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手に入れた本物の幸せ

 帰り道を歩く、陸斗(りくと)の足取りは軽かった。弾んでいたし、本当に気を抜けばスキップだってしてしまったかもしれない。  家に帰る前に、ケーキ屋へ行こうかな。結構人気のある店で、ケーキも焼き菓子も美味しいとなかなかの評判。あいにく、ケーキはそこまで好きじゃない陸斗としては、積極的に寄ろうと思った事もなかったけれど、今日は別だ。  柚陽(ゆずひ)と過ごす特別な日には、ケーキ、あっても良いかもしれないっすね。柚陽の誕生日はまだまだ先だけど、今日だって2人にとって「特別な日」と言っても良い日だから。  2人の邪魔をする人間も、もういなくなったし、陸斗を悩ませていた、苦い記憶で、憎い存在の海里(かいり)だって、もう陸斗を悩ませたりはしないだろう。騙されたのは消せない事実かもしれないけれど、復讐を遂げた事で気分は爽快だった。  これで、もう、苦い記憶に悩まされる事も、邪魔な人間にイライラする事もなく、柚陽と2人で幸せに暮らせる。そんなスタートの日だから、ケーキを添えても良いだろうって。  あとは、単純に柚陽、甘い物も好きっすからね。ケーキを買って帰れば、きっと、ふわっと、花が咲いた様に微笑んでくれるだろう。その笑顔が見られると思うと、今まで興味なんてなかった店でさえ、キラキラと輝いて見えるのだから、恋と言うのは凄い。  違う。凄いのは「恋」と言うより、「柚陽」っすね。多分柚陽だからこうなるんだ。ケーキ屋に向かう陸斗の頭には、単純で、ありふれている言い方だけど、「まさに運命」といった言葉が浮かんでいた。

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