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 気分が良いから、普段なら、うっとうしく感じられる様なことも、快く対応できる。とは言っても、あくまで普段は不愛想で、にこりとも笑わないような、“陸斗(りくと)の中で”という範囲ではあるけれど。それでも、陸斗を知る人間が見れば、驚いて、「コイツ、本当に陸斗か!?」「アイツに双子の兄弟なんていたっけ?」という、ベタベタな反応を見せるくらいには、今の陸斗は愛想が良かった。  たとえばケーキ屋で。  ケースの中に並ぶケーキを眺めては、どれにしようか悩んでいる様な時。「お祝い用なんですか?」なんて話し掛けてきた店員に、陸斗は本当に小さく、微笑んだ。  普段だったらもちろん無視してるし、最悪、睨み付ける。  微笑んだ結果、店員は小さく「きゃっ」なんて黄色い声をあげたけど、それに対しても嫌な顔1つしないでおく。小さな微笑みを浮かべたまま、「そうっすね」と肯定を返した。  お祝い事だからホールにしようかとも思ったけど、さすがに食べ盛りといっても2人だけでホールを完食するのは、しんどそうだし。  柚陽の好きな物を1つ2つっていうのも、捨てがたい。 「大切な人と、幸せな生活を始められるようになったんす。だからそのお祝いをしたいんだけど、こーいう時、どんなの買えば良いか分からないんすよね」  微笑みを照れくさいような苦笑に変えて、陸斗は伝えた。頬を掻く。  言っていて、思い出した。本当にこーいうの、初めてだ。海里(かいり)に騙されている時にも、これだけはしていない。良かった、柚陽とハジメテが出来る。  そう思うとますます嬉しくて、陸斗の気分は本当に明るくなっていく。

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