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「それでしたら、このケーキがオススメですよ。“幸せ”という意味を込めた商品名なんです」
「そうなんすね。じゃあ、それ2つと、あとベリーケーキとオレンジケーキを1つずつお願いしたいっす」
普段なら誰かの意見なんて参考にしないし、そもそも求めない。友人同士で話していて、アドバイスめいた事を言われても「アンタには聞いてないっす」と素っ気なく返すし、服を見ていて寄ってくる店員についても同じような態度だった。「いつか刺されそう」とは誰が言ったのだったか。
でも今回は、教えてもらったままにケーキを見て、それは確かに、真っ白で繊細なデコレーションのされた見た目も綺麗で、美味しそうで、“幸せ”という商品名にもグッと惹かれたから、素直にアドバイスを聞き入れる。結果としてカットケーキになったから、他に、ベリーケーキとオレンジケーキを選ぶ事にした。
イチゴクリームに、ほんのりピンク色のスポンジ。綺麗に飾られたいくつかのイチゴ。
柚陽 と食べたイチゴプリンや、初めての、甘いキスを思い出したから。それに柚陽もイチゴスイーツは好きだから。多分そんな事を思っている内に、内心が顔に出ていたんだろう。ケーキを箱に入れてくれた店員が、どこか頬を赤らめつつ、微笑ましそうな目を向けている。
陸斗 の整った顔は、過去を思い返して思わず緩んでも、絵になる。とはいえ、今までそんな緩め方だって、した事はなかったんだけど。
自分の表情筋が、覚えのない動き方をした事に陸斗は驚きつつ、ケーキの支払いも、受け取るのも、店を出るのも、ずっと穏やかに微笑んだままで、幸せな気分のままでいた。
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