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思い出すのは、初めて柚陽 の手料理を食べた日だ。あの時陸斗 は、満足な食事も摂れず、ベッドからも追いやられて、心身共に疲れ果ててた。
それを助けてくれたのが柚陽。ボウリングも、買い物も、凄く楽しくて。作ってもらったカレーも、とても美味しかった。柚陽との思い出の1ページ目。
やっぱ今日は特別な日っすから、あの時と同じカレーっすね。リクエストを聞かれて、すぐに浮かんでいた。自分の中にもこんな、記念日やその時の事をいちいち気にする心があるとは思えなくて、ちょっとびっくりしたけれど。
でも。
陸斗を、陸斗だけをまっすぐに見つめて、リクエストを待ってるんだろう、こてん、と首を傾げたままの柚陽が愛らしくて、思わず笑う。「りっくん?」って不思議そうに呼ばれたし、あんま待たせちゃうと悪いから、そろそろ答えないと。
「カレーっすかね。スパイスの効いた、辛いやつが食べたい」
「うん、分かった! りっくんのために、愛情たっぷり込めて作るね」
たーっぷり!言いながら、柚陽は小柄な体で精一杯大きさを表す。そんな、小さな子供じみた姿が可愛くて、つい、吹き出した。ド天然な柚陽は意味が分からないらしく、不思議そうにしてるだけだったけど。
ガキなんて気持ち悪いだけだけど、子供っぽい仕草を見せる柚陽は可愛い。
思い出だの記念日だのバカバカしいけど、柚陽とだったら、ソレもしたい。だからこそ、幸せな生活のスタートはあの時オレを救ってくれたカレーが良いんすよね。
「楽しみにしてるっす! ありがと、柚陽」
本当はこのまま押し倒したいし、せめて深いキスを交わし合いたいけれど。「落ち着くっす、オレ!!」なんて自分に言い聞かせながら。
ほんのり赤くなったままの頬に、そっとキスするだけに留めておいた。食後のデザートは頂いちゃいそっすけど。
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