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 柚陽(ゆずひ)のカレーは、スパイスがよく効いた辛口で、やっぱり美味しかったカレーも食べ終え、デザートの時間だ。テーブルに並ぶケーキに柚陽はまた、目を輝かせた。可愛い。  普段陸斗(りくと)はケーキに興味がなかったのもあって、店でマジマジと眺め、真剣に悩む、なんて事しなかったのだけれど。今回初めてそうして見て、分かった事がある。ケーキは見た目からして美味しそうだし、綺麗だったり、可愛かったりする。見ただけで柚陽が目を輝かせるのも、納得だ。  とはいえ、柚陽が目を輝かせていたのは、そんな見た目だけの問題でも、「ケーキ楽しみ!」なんていう問題でもなかったらしい。  それも確かにあっただろうけれど、それだけではない、というか。 「幸せのケーキもあるんだ」 「幸せのケーキ? ……ああ、コレの事っすね」  陸斗が店員のアドバイスを受けて選んだ、白色のケーキ。柚陽の言葉に一瞬きょとんとしたけれど、「幸せ」という言葉で、すぐに店での会話が浮かんだ。  どうやら柚陽の目が輝いているのは、ケーキの中にソレがあった事も影響するらしい。選んで良かったっす。柚陽の反応に安堵しながら、陸斗は、このケーキを勧めてくれた店員に感謝した。他人に感謝するなんて、初めてのことかもしれない。 「うん。名前が幸せって意味になってるし、食べた人を幸せにする、とも言われてるんだよ。逆におめでたい事があった時に食べる、とか。りっくん、何か良いことあった?」  こてん。いつもの様に頭が倒される。  いつもの光景だけど、見飽きることなんてなくて。やっぱり可愛くてたまらない。ふわふわの髪を撫でながら、うん、短い肯定を先に返した。 「あったっすよ、良いこと。オレにとっても、柚陽にとっても、きっと大事な日になるっす」

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