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ぽんぽん、なんて。きっとそんな、軽快でファンシーな音をさせて、柚陽 の頭上には“はてなマーク”がたくさん浮かんでる。
首をかしげる角度も、少しだけ大きくなった。
まだ柚陽とは友人同士だった頃から、こてん、と首をかしげるクセについては、陸斗 も知っていた。だけど分からないことが増えたり、分からないまま時間が経っていくと、どんとわん横に倒されていくっていうのは、恋人になってから分かった事だ。
大きめの目に、可愛い顔立ち。極度の童顔。
そういう、柚陽が持ってる外見の要素が全部幸いして、男子大学生だっていうのに、そのクセは柚陽の魅力になってる。それに、自分しか知らないかも、っていうのは。カップルっぽくて良いっすね、なんて思うのだ。
これからそうした、柚陽のクセが、新しく見付かるのかもしれない。
そう思うと、それもやっぱり、幸せだ。
とは言え。
新しいクセを知れた幸せや、そのクセが可愛いと言っても、このままだと首を痛めるだろうし、ド天然の柚陽だ。バランスを崩して床に転がってしまいかねない。
そんなに高くないイスだけど、落ちれば痛いし、怪我だってしてしまうだろう。大切な恋人に、痛い思いなんてさせられない。
「今日から本当に、誰にも邪魔されないでオツキアイ、できるっすよ」
港 のように突っかかってくる人間も。
陸斗の中でこびりついた、海里 への憎悪も。
もう、綺麗さっぱり無くなった。現に「柚陽と付き合う前」を、つまりは、「海里に騙されていた時」を思い出しても、もう、昨日までの苛立ちや憎悪は湧いてこない。
これでやっと、部外者にやいのやいの言われたり、心の中のモヤモヤに邪魔される事なく、柚陽と幸せに暮らせるんだ。
「嬉しい! ありがとう、りっくん。本当に、幸せな日だね」
柚陽の首の角度は戻って、明るい笑顔が、そこにはあった。
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