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「な、なんでアンタがココにいるんすか!?」
動揺のあまり、声も上ずっていた気がする。
まだ陸斗 が海里 に騙されていた頃。その時、この子供はそれほど陸斗に懐いていなかったはずだ。
もちろん、懐かれたって陸斗は困るし、コイツが陸斗のトコに来た本当の理由を思えば、海里にばっか懐いていたっていうのも、今なら多少冷静に納得できる。でも、ガキ本人が大学までやってきて、その上自分を名指しして駆け寄ってきたとなると、ワケが違う。
動揺だってするし、ガキ、特に空斗 に対しては嫌悪感が強くて、つい身構えてしまう。
大人気ないとは思っても、遥か上から見下して、睨みつけるのをやめられない。
不幸中の幸いだったのは、そんな陸斗をからかう人間も、下手に止める人間もいなかった事。
多分、今、空斗の事で部外者に口出しされれば、陸斗は簡単に我を失っていた。自分で分かる。
「陸は、パパのコイビトになったの? 海ちゃんを、すてたの?」
柚陽譲りの大きくて、無邪気な目が、まっすぐに陸斗を見上げる。
全部終わった後で良かった。陸斗は胸をなでおろす。そうでなければ、ガキ相手でも海里の名前を聞いた途端、殴っていただろうから。
無視しても良いっすけど。ちらっと、空斗を見下ろす。
あいにく柚陽と似てるからって、絆されるような性格にはなってない。それでも「わざわざソレを言いに来た」っていうような態度と、今更そんなことを聞く理由が、気になった。
子供相手だからと、視線を合わせるだけのやさしさは、持っていない。
でも空斗を見下ろした格好のまま、
「なにが言いたいんすか?」
話を聞く意思がある事は、示してやった。
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