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 講義も始まるし、教室だと悪目立ちするからと声を掛けてくれた誰かさんが、そのまま勢いで自習室を口にしなかった事に、陸斗(りくと)は少しだけ感謝していた。いくらもう何も思っていなくて、反省も後悔もしていないとは言っても、憎かった相手と復讐を果たした場所で一緒にいる、なんて事が出来るほど、陸斗の神経は太くない。  もしかしたら、以前の陸斗なら出来たかもしれないけど。  幸せになった事で身についた、ほんの少しの社交性は、これまたほんの少し、「物事への関心」っていうのを連れてきたのかもしれない。  敷地内のテラス席に向かい合って座る。空斗(そらと)はガキらしく足をぶらぶら揺らしながら、陸斗と海里(かいり)を交互に見つめては、幸せそうに明るく笑っていた。  ほんと、ガキっすね。この微妙な空気が分からないなんて。イライラと呆れを感じながら、陸斗は空斗を睨むように見つめた。このガキには、あまり良い印象がない。柚陽(ゆずひ)と結ばれたのがガキのおかげだとしても、だ。 「それで、アンタは何を知ってるんすか?」  自然と空斗を睨むように見つめたまま、問い掛ける。けれど空斗はと言えば、こてん、不思議そうに首を倒すだけ。  顔立ちも似てるから、柚陽を自然思い起こしてしまって腹が立つのを、どうにか治めた。また海里に怒られても堪らない。折角消えた恨みをわざわざ再発させて、柚陽との幸せを崩す事はないし。  なにより、さっきの言葉は聞き捨てならなかった。子供の戯言だって、聞き流せてしまうレベルじゃ、ない。

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