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「ねえ、陸。陸はほんとに、それで良いの?」
空斗 と自分の間に、なにか「ズレ」があるのを陸斗 は感じた。それは、子供と、一応は「大人」と言える様な年齢である違いとか、海里 に懐いている人間と、恨んでいた人間の違いとか、そういうのじゃなくて。
自分の気持ち、とかじゃない。何か、根本的なところがズレている。でも、そのズレはなんなんすか。
「本当に良いも、なにも。そもそも、今更気を遣うくらいなら、最初から言えば良かったじゃないすか。父親が柚陽 で、柚陽に頼まれて来た、って。なんなら最初から柚陽に、そんなことしたくない、って訴えても良いんだし」
「パパは怖いもん。……それに、オレ、陸が海ちゃんを捨てるなんて、思わなかった。パパの考えなんて、外れると思ってたのに」
なんでか、空斗の大きな目まで潤んでた。柚陽によく似た大きな目が潤んでいる。柚陽と空斗が似ているっていうのは、不愉快だし、気持ち悪いのに、柚陽を泣かせてしまった気がして落ち着かない。
柚陽が怖いっていうのには、違和感もあったけど、子供にとって親が怖く見える時期はある。柚陽は子供が嫌いらしいし、不思議はないのかも。
ただ、それより引っかかるのは。
じっ、と。大きな目いっぱいに涙をためて、でも泣くまいと堪えて。必死に陸斗を見つめて、空斗は何かを言おうとして、戸惑った。
陸斗と海里の前で無邪気にはしゃいで、海里の作るハンバーグに目を輝かせる。陸斗にとって空斗とは、そんな、子供らしい子供だったはず。なのに、言おうか言うまいか躊躇うその姿は、やけに大人びて映った。
それに、嫌な予感がする。聞きたくないっす。そう思うと同時に、空斗の言葉を待つ自分もいた。
陸斗のケータイと海里のケータイが同時に鳴ったのは、空斗がようやく、口を開こうとした、まさにその時だった。
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