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 話そうかどうしようか迷って、ようやく切り出そうとしたところを阻まれるとつい口を閉じてしまうのは、大人も子供も同じらしい。却って子供の方が顕著だろうか。  空斗(そらと)も例外じゃないようで、突然聞こえた着信音に、すっかり口を閉じてしまった。困ったように、なにか言いたそうに、大きな目が陸斗(りくと)海里(かいり)の間で往復する。残念ながらそんな不安そうに見つめられても、陸斗には刺激される父性もないし、「守ってあげたい」なんて思わないけど。  でも、話自体は気になる。ここで電話をとれば、今度こそ空斗は黙り込んでしまいそうだし、あとでかけ直そうか。  そう考える陸斗をあざ笑うように、海里は一瞬躊躇ってから電話を耳にあてる。電話自体はすぐに終わったけど、海里にしては珍しい気がする。あれだけ空斗を優先していたというのに。 「アンタが人前で電話出るなんて、珍しいね。コイツの言葉も遮る形になったし、つーかアンタにしては着信音大きすぎない?」  折角なにか答えに触れられそうだったのに。ほんな気持ちもあって思わず呟いてしまう。  着信音にしても、まだ一緒にいた頃はもっと小さかった。あれ、下手したらマックスだったんじゃないっすか?  でも海里はなにも言わない。ただ少し、困ったように微笑んだだけ。これで空斗が話さなくなってしまったら、また恨んでしまうかもしれない。  ただ、空斗の方はあまり気にした様子がない。一瞬、コレが、一般的な育ち方をしなかった子供の、普通の反応なのかと思った。空斗の生活だって、きっと「世間一般」とは呼ばないから。  でも、よく見ると、なんとなく違う気がする。さっきまで困ったように陸斗と海里を見てた空斗の大きな目は、今は心配そうに海里を見つめてる。そこに、「保護者の機嫌を悪くした」事による怯えは、ないように見えた。  陸斗の考えが間違っていないと言うように、 「海ちゃん、大丈夫? 電話は、(みなと)くん? それとも、おにーちゃん?」  海里を労わる言葉と、空斗の口から発せられた名前に、陸斗はハッとする。多分、それは表情にありありと出て、隠せていない。  海里が、気まずそうな苦笑を一瞬だけ陸斗に向けた。……ああ、これが答えじゃないっすか。海里は、あざ笑うように電話に出たワケじゃない。 「さっきのは、はるにぃ。あんまり遅いようなら港と一緒に迎えに行く、ってさ」 「来てもらう?」 「いいや、大丈夫だ。と言うか、空斗までそんなに心配しなくて良いぜ? コレはドジって捻挫しただけなんだし」 「でも、ケガは痛い痛いだよ?」  海里は見え透いた嘘を言う。少なくとも、陸斗相手には通じようもない嘘だ。そしてきっと。何があったかまでは分からなくても、「何か」したのが陸斗とまでは分かっていなくても、空斗も嘘だと悟っていて、海里を心配してる。  多分、空斗や電話相手を心配させないために、話の流れを切る事になっても電話を取ったんだ。……確かに、これで海里が電話に出なかったら、あの2人がどれほど慌てて、何をするか、分かったものじゃない。  海里の場合は「これ以上心配をかけたくないから」って理由で取ったんだろうけど。

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