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言い方は違ったけど、言葉自体は前にも柚陽 本人から聞いていた。海里 と仲違いするキッカケを作ったのは自分だと。「りっくんは、それでも良いの?」そんな柚陽に返した答えを陸斗 は今でも覚えてるし、そこに嘘はない。変化もない。
今だって柚陽に聞かれれば、堂々と陸斗は答えるだろう。「そんだけオレを想ってくれたなんて、光栄っすよ」と。
ならば、話は簡単だ。簡単なはずだ。だってこのガキも同じような事を聞いてるんだから。何を引っ掛かる事があるんすか。
そんな風に言い聞かせるだけで拭える違和感ではないけれど、ようやく手に入れた幸せだ。こんなところで崩されるワケにはいかなかった。
それに、もう、憎んでこそいないけど、海里を好いてもいないし。
陸斗は空斗 をまっすぐに見つめ返した。身長差のせいで見下す形なのは相変わらずだけど、睨むではなくて、見つめる。そんな形を取ったのは、自分が柚陽に真剣な気持ちを向けているという表明代わりでもあった。相手は柚陽の子供だし、当の本人は柚陽より海里に懐いてるっすけど。
でもそれならなおさら、きちんとこのガキの前でも言うべきなのかもしれない。オレは自分で決めて、柚陽を選んだんだと。
それは、ほとんど弾くような動作だったけど。でも、やっぱり自分の意思で海里の手を離したんだと。
あくまで空斗も、空斗をけしかけると言う柚陽の作戦も、キッカケにしか過ぎなかった。決めたのは自分なんだ。オレは柚陽と幸せになるんすよ!!
「オレは、自分で柚陽を選んだんすよ。柚陽と幸せになりたい、柚陽を幸せにする、って」
「陸、オレは」
空斗の答えは、少し騒がしい足音と、「りっくん!!」なんて焦ったような柚陽の声で掻き消された。
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