152 / 538

 オレまで怖くなってきそうっすね。そんな恐怖には無視を決め込んで、陸斗(りくと)柚陽(ゆずひ)にやさしく笑う。  ふわふわの髪をやさしく撫でれば、少しやわらかく微笑んだけど、まだ機嫌は悪いらしく、空斗(そらと)を睨むのは止めていない。  正直、柚陽って人を恨んだりしないって思ってたんすけど。どうやら、空斗の事はよっぽど嫌いなようだ。  それは子供が嫌いなのか、空斗が嫌いなのか、はたまた空斗の母親である女が嫌いなのか。分からないけど、このまま柚陽と空斗を一緒にしておくのは気がひける。  陸斗は、睨み合いを邪魔するように柚陽の肩をそっと抱いて、そのまま抱きしめた。「りりり、りっくん!?」なんて、電子音を口から鳴らすほど驚かせてしまったようだ。  でも、その甲斐あって柚陽から空斗に向けて漏れていた、ドス黒い怒りのオーラは、引っ込んでくれている。 「心配してくれてありがと。でもオレは大丈夫っすよー。ケータイが聞こえなかったのは、本当に単純なオレのミスっす」 「ほんと?」 「本当っす」 「そっか! それなら良かった。でも、気をつけてね?」  さっきまでの柚陽は、陸斗の勘違いだったかのように。いつものように微笑んで、いつものように無邪気に話す柚陽が其処にはいた。  空斗の方は、まだ柚陽に怯えているけれど。

ともだちにシェアしよう!