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「でも、急にどうしたんすか? 柚陽 が大学で電話してくるなんて、珍しいよね?」
時間割は比較的被っている方だし、そうでない時はお互い待っていたり、迎えに行ったりであまり大学内で電話をした事はない。普段なら陸斗 も手放しで喜ぶけど、今回のこのタイミング。つい、嬉しさ9割の中に1割くらい、不純物がまざってしまう。
とはいえ、やさしくて、ド天然。言葉の裏を読む事が苦手で、言葉通りの意味にしか取らないのが柚陽だ。そんな事、出来るとは思えないんすけど。
「どうしたもこうしたもないよー!」
ぷくり。拗ねたように柚陽は頬を膨らませる。やわらかいほっぺが膨らんで、つっつきたくなる。本人としては「オレ、本気で怒ってるんだからね!」といったところなんだろうけど。
実際、頬を膨らませたまま腕を組んで、「心配したんだからー」って言う姿は、“ぷりぷり”なんて、可愛らしい怒り方をしてる時の効果音が聞こえてきそうだ。でも、心配って、なんですかね?
柚陽に心配をかける事なんてしただろうか。自分の行動を直近から辿り出す陸斗に、けれど柚陽がすぐ答えを伝えた。
「ソコの子供が大学にいたとか、りっくんが授業も受けずに出ていった、とか。コイツがりっくんに何か失礼な事してないか、不安だったし……」
「あー、心配掛けてごめんね?」
空斗 は相変わらず、がたがた震えてる。陸斗の視界にも、それは映ってた。
陸斗は空斗が、子供が嫌いだ。それは海里 への復讐を果たしてからも同じ。空斗については「吐き気がする」と言っても過言じゃない。
でも、そんな陸斗の目から見ても、空斗の怯えようは異常にも、可哀想にも思えて。
「良いの! りっくんの無事が確認できたし」
だけどそれを、今は頬もしぼんで怒っていなさそうとはいえ、柚陽本人に言うのは躊躇ってしまう。つーか、オレに言う資格って、ない気もするんすよね。子供嫌い。空斗に対して拒否反応さえ抱いてる。うん、我ながらフォローの仕様がねぇっす。
だけど、なー。
視界に映る空斗の怯えようといったら。一応3人同じ屋根の下にいた時でさえ、見せた事がなかった。空斗を嫌う陸斗が声を荒げたって、大きな声に一瞬ビクッとする、それくらいで。
どうしよう。聞いていい部分すかね?
恋人のデリケートな部分に触れるのだと思うと躊躇いもあって。情けないけどそんな風に迷っている間に、
「柚陽。子供の前」
海里 が動く方が早かった。
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