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その叫び声には、迫力らしい迫力なんてなかったけど。それでも、少しびっくりさせるくらいの効果は、ある。
陸斗 も驚いたし、海里 も少し驚いたようだった。
そして、柚陽 も。
そのせいか、海里に伸ばしていた手は一瞬、止まっていた。大きな目を更に大きくして、きょとん、と、空斗を見つめる。
空斗はと言えば今にも泣き出しそうで、「うっ……うっ」なんて声を詰まらせながらも、柚陽を睨むのをやめない。この2人、なにかあったんすか……?
柚陽が子供嫌いなのは分かってる。空斗に対してあたりがキツかった可能性だってある。そもそも、自分の恋を実らせるのに空斗を使ったくらいだから。
でも。そーいうのを踏まえても、なんか、ギスギスし過ぎじゃ、ないっすか?
陸斗には親子関係なんてよく分からない。自分の親は、きっと「世間一般で見て普通」だったんだろうけど、陸斗の方に問題があった。何にも、興味を持たなかった。親にも、興味がなかった。
この歳で父親になるって事も分からない。少なくとも、空斗と暮らしていた間は苦痛で苦痛で仕方なかった。声を荒げたし、物も投げたし、空斗に対して暴言とも言える本音を何度も何度もぶつけていた。
反省も後悔もしないっすけど、我ながら酷い大人だ。でもこのガキは、そんなオレにも、あまり怯えなかったのに。
柚陽から言い聞かせられていた事のため?でも、まだ小学生にも満たない子供が、誰にも漏らす事なく、仕事だからって恐怖に耐えられるんだろうか。
「ねえ、お前が海里くんを守る資格も、可哀想だって思う権利もないって、分からないの? お前が」
「柚陽!」
驚きから復活した柚陽は、空斗を見下ろして言葉を紡いでいる。
別に空斗を庇おうとしたワケじゃない。
それでも、柚陽がこれ以上何か言わないように、空斗を殴ったりしてしまわないようにと、遮る目的で、後の言葉は考えず、名前を呼んでいた。
「なあに? りっくん」
それに気が付いたのは、こてん。
いつものように可愛らしい顔立ちで。首を横に倒して、やさしい声音で訊ねる柚陽を見た後だった。
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